4月に入り、徳島県内各地で田植えが始まっている。トラクターで耕した田んぼに水が引かれ、無造作な土の広がりが姿を変える。張り巡らされた水の中に緑の小さな苗が整然と並ぶ様子は、日本の春の風物詩である。
米作りは縄文時代に始まり、弥生時代に日本各地に広がったとされている。人々の食生活を支えてきただけでなく、政治や経済にも大きな影響を与えてきた。
大化の改新(645年)以後は税として米が納められるようになり、戦国時代以降
は、米の生産量を表す「石高」が藩の力になった。1石は大人1人が1年間に食べる米の量で、石高量は藩主の格とされた。徳島藩は25万石だった。
県内の米どころ、阿南市見能林町は早場米の地域としても知られ、既に田植えを終えた。一帯に広がる水田(約350ヘクタール)は、巨大な池のようでもある。
阿南市のシンボル・津峰山(287メートル)の尾根に日が沈む夕刻になると、あかね色の空が田んぼに映り、水が輝いて見える。思わず郷愁に誘われ、心に染みる光景だ。(吉本旭)