徳島市の徳島健生病院で入院中だった70代男性(4月27日死去)の新型コロナウイルス感染が確認された4月21日、男性の対応に当たった病院関係者のうち、女性看護師の一人が病院が手配したホテルで宿泊することになった。

 「院内に濃厚接触者はおらずPCR検査の必要はない」と保健所が判断したため、女性はこの時点で検査は受けられず、感染の有無は不明だった。防護服着用など対策は万全だったものの、自宅に難病を患う家族がおり「万一、感染していたら命を危険にさらしてしまう」と外泊を申し出た。

 病院は診察の対応をした関係者を2週間の自宅待機とした。女性はホテルで過ごそうと、チェックイン時に13泊分を前払いして1泊した。ところが翌22日朝、ホテルから「うちでは長期の連泊はできない」と言われた。女性は「恐らく私が健生病院の看護師だからだろう」と受け止め、宿泊を諦めた。

 その後は病院に頼んで空き病室で1泊したり、他のホテルを頼ったり。26日に病院側の要望でPCR検査が実現し、陰性が明らかになるまで不安定な日が続いた。感染の疑いがある客を受け入れたくないホテル側の事情を理解しながらも、「行き場がなく困った」と振り返る。

 医療従事者を巡る風評被害や差別的な言動は、全国各地で問題となった。県医療労働組合連合会(県医労連)は5月下旬、県内医療・介護従事者に聞き取り調査した結果、健生病院の別の看護師の家族が勤務先から出社拒否されたり、子どもが保育所から預かりを拒否されたりしていた。他の病院でも「感染者が入院した」という事実無根のうわさが広まり、患者からの問い合わせや受診抑制が起きた事例が複数あった。

 感染者が発生していない医療機関の関係者に対しても不安の目は向けられた。県内の別の医療機関の関係者によると、ある看護師は学童保育から「お子さんを休ませてくれませんか」と言われた。通わせたとしても子どもが嫌な思いをしないか、自分は悪いことをしているのかなどと心理的にも追い詰められ、休職を決めたという。

 こうした背景には「ウイルスという見えない敵への不安」が挙げられる。有効な治療法が未確立の中、恐怖心から自己防衛の思いが高まり、排他的な傾向が強まっているとされる。

 感染者を攻撃する状況が続けば、疑いがある人の受診控えが起こり、さらに感染が広がる恐れもある。実際、県保険医協会による県内開業医へのアンケートでも「『感染が分かれば村八分にされるので、PCR検査は受けない』という患者が少なくない」との回答が見られた。

 九州大の小田垣孝名誉教授(社会物理学)は「症状が出たらすぐにPCR検査をして陽性者を隔離し、医療従事者には抗体検査を行うこと。これが見えない不安をぬぐうのに最も有効な解決策だ。併せて、買い物代行、育児支援など、隔離者をサポートする態勢も必要だ」と指摘する。

 感染への差別や偏見をなくさなければ、医療従事者の離職など「医療崩壊」を招きかねず、第2波に向けた対策の充実が急がれる。