嫌がらせ行為の自衛策として「徳島県内在住者です」と書かれたステッカーを張った大型バイク

 徳島市で暮らす県外出身の医療従事者が、県外ナンバー車で職場の駐車場から帰宅しようとしていた時、通り掛かりの女性からいきなり「県外ナンバー、県外ナンバー」と叫ばれた。ゆっくり通り過ぎようとすると、すれ違いざまに車の右後部をたたかれるか蹴られるような音がしたという。

 県医療労働組合連合会(県医労連)が5月下旬、新型コロナウイルスを巡る差別的言動の聞き取り調査を行った際に報告された事例だ。このケースの女性の矛先は、医療従事者という立場ではなく、「県外ナンバー」に向けられた。

 4月16日に緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大され、全国的に県外ナンバー車の流入を警戒する動きが広がった。県内では21日、飯泉嘉門知事が県外ナンバー車の交通量調査を表明し、高速道路のインターチェンジなどで調べ始めたことが拍車を掛けた。まるで県外ナンバー車を敵視するかのような意識が一部に広がり、「あおり運転をされた」「暴言を吐かれた」などの報告が県に相次いだ。知事は24日、「メッセージが強すぎた」と釈明した。

 徳島市出身で今は京都市在住の佐野淳也さん(49)=同志社大政策学部准教授・市民社会論=は、このニュースに敏感に反応した。24日、フェイスブックに書き込み、徳島新聞にも大学院生の時以来22年ぶりとなる投稿をし、30日に掲載された。「徳島県出身者として悲しい」とつづった。

 本来の徳島はこうじゃない。発言しなくては―。投稿はそうした強い懸念からだったと振り返る。「徳島の場合、感染被害は少なかったが、感染への不安を背景に引き起こされた差別感情の連鎖や悪意といった『心のウイルス』のダメージの方が大きかったのではないか」と話す。

 一方、もともと地域社会の中にあった排他性や不寛容さに県民が直面する機会になったとも。「これを教訓として、より良い地域社会をつくっていくチャンスにしなければ」と訴える。

 道路運送車両法では住所地のナンバープレートに変更することが義務付けられている。しかし実際は、そのままにしている県内在住者は少なくない。

 こうした人の自衛手段として徳島市の企業は4月下旬、「徳島県内在住者です」と記した乗用車やバイク用のステッカーを発売した。すると、5月の連休も休み返上となるほど注文が入った。社長によると「一企業の利益目的だ」と中傷もされたが、購入者からは「4日間、買い物にも行けなかった。ステッカーのおかげでやっと外出できる」と感謝の言葉も届いたという。

 三好市は印刷してダッシュボードなどに置いてもらう「徳島県内在住者です」と書かれた画像をホームページで公開した。しかし、「本当の県外人に嫌がらせをするのは問題ないことになる」「これを利用すれば越県できる」などと批判が上がり、悪用を避けるために市はホームページから削除した。需要はあるため市役所の窓口などに置き、100枚以上が配られた。

 このほか、県南部の自動車整備業者によると、県外ナンバー車の客から「怖いから」と頼まれ、登録変更を代行したケースが2件あった。徳島市内のある事業所には、神戸市のシステム業者から「徳島に行けば石を投げられないか」と真剣に心配する問い合わせもあった。過敏な空気がしばらく徳島を覆っていた。