県外からの来店客を断る看板を出すパチンコ店=徳島市内

 県境をまたぐな、と言われても、簡単に「分かりました」と受け入れられない地域がある。

 海陽町に隣接する高知県東洋町がそうだ。2002年、東洋町が行った町村合併の枠組みアンケートでは、高知側ではなく、海部郡南部の海南、海部、宍喰の旧3町との合併を望む声が約3割と最も多かったほど。そこで暮らす人々にとって通勤、通院や買い物をはじめ、徳島県南部は生活圏となっている。

 4月16日に緊急事態宣言の対象が全国に広がり、県外移動の自粛が求められて以降も、東洋町で飲食店を営む男性は連日、海陽町のスーパーマーケットに買い出しに出掛けた。高知県内の最寄りのスーパーに向かうよりもはるかに便利で、県境を越えられなければ死活問題となる。

 男性によると「幸い徳島の顔見知りは多く、高知ナンバー車でも嫌がらせをされたことは一度もない」。ただ、県外、県内を分け、個々の事情も分からないまま、越境者を過度に警戒する全国的な風潮には違和感を持った。「私のように、日々行き来している者にとっては排他的なように感じる。県境にどれほどの意味があるのか」と話した。

 コロナ禍により「県外」という言葉は感染リスクと同じ意味を帯びた。これまで県内の感染者は5例と少ないが、そのいずれもが県外で感染した後に確認されたケースで、市中感染はない。県が「県外」への警戒を強めたのもこのためだ。

 「県外からの人の流入制限が感染拡大防止に有効」として、飯泉嘉門県知事は4月24日の定例会見で県内のパチンコ店やゲームセンター、カラオケボックスなどに、県外客かどうかを確認した上で入店を拒むよう要請したことを明かした。

 パチンコ店の中には、県外ナンバー車の県民には運転免許証などの提示を求め、車外から見える場所に「確認済み」などと書いた紙を置いてもらう対応を取った。一時休業していた「あすたむらんど徳島」などの県有施設は、5月9日の再開後も「県外客はお断り」とした。いずれも5月31日まで要請は続いた。

 「都道府県別だと対策も取りやすく、県境をまたぐ移動自粛は意味はある」。同志社大心理学部教授の中谷内一也教授(社会心理学)はそう強調する。

 一方、徳島で県外ナンバー車の排除が強まった背景については「感染者が少なかったこと」を挙げる。人間心理として、リスクが少ない所にリスク要因が現れる場合、より強い反発を招くという。東日本大震災でも東京電力福島第1原発から離れた避難所では、原発周辺から避難してきた人への排他的対応が見られた。

 さらに中谷内教授は「知事の強いメッセージで県外ナンバー車を警戒する気持ちが正当化された。コロナで蓄積されていたフラストレーションや不満が、一気に攻撃的な方向に向かったのではないか」と分析する。他者への不寛容な行為であっても、そこに「正しさ」があると信じれば歯止めが利かなくなる、との理論からだ。

 県外との不要不急の往来抑制に効果がなかったとはいえない。しかし、感染リスクを徹底してゼロにしようと県外客を排除した姿勢が、県外の人の目にはどう映ったか。魅力的な地域と感じてもらえるだろうか。不安も残した。