水没した工場内の車=4日午前9時すぎ、熊本県人吉市(中川さん提供)

 瞬く間に腰の高さまで水位が上がり、工場内の車は次々と水没した―。熊本県南部を襲った豪雨による球磨川の氾濫で、広範囲に浸水被害が出た人吉市に住む徳島県人2世の中川貴夫さん(65)=自動車整備工場経営。亡父・義澄さんが鳴門市里浦町出身の中川さんは「信じられない光景だった。水害を甘く見てはいけない」と被災時を振り返った。

 人吉市では4日午前4時50分に大雨特別警報が発表された。中川さんはスマートフォンのアラートで警報に気付いていたが、自宅と工場は氾濫した球磨川から北に800メートルほど離れている。「ここまで水が来るわけない」。この日も普段通り午前8時半から工場で仕事を始めた。

 異変に気付いたのは、午前9時ごろだった。工場に隣接する国道を泥水が流れ始めた。当初は「大したことない」と楽観視していた。しかし、潮が満ちてくるように静かに水位が上がってくる。ほんの数分で泥水は工場内に浸水し、気が付けば腰の高さに達していた。球磨川に排水し切れなかった水が市街地にたまる「内水氾濫」によるものだった。

 工場内には修理済みや修理中の車が10台あり、うち7台が座席の20センチ上まで浸水した。一部の車は故障したのか、ハザードランプが泥水の中で点滅。水は2時間ほどで引いたものの、事務所や隣接する自宅の電話、インターネット回線は使用できなくなった。

 自宅は床上浸水し、畳や床の上には粘着性の強い泥だけが残った。家族で自宅や工場の泥のかき出しを必死で進めている。

 地域の車は大半が水没したため、整備や運搬を依頼されることも多い。手作業でできる簡単な修理はしているが、工場内の機械が正常に作動するかどうか確認できていない。「自分たちの生活がこれからどうなるのか見通しが立たない」と思わずため息が漏れる。

 中川さんは「災害は人ごとではない。徳島の方も楽観視せず、備えを進めてほしい」と語った。