タカサゴキララマダニの成虫。通常(写真上)は体長1センチ弱だが、吸血後(同下)は体が5、6倍に膨れ上がる

タカサゴキララマダニの成虫。通常(写真上)は体長1センチ弱だが、吸血後(同下)は体が5、6倍に膨れ上がる

 マダニが媒介する「日本紅斑熱」や「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」といった感染症の患者が全国で急増している。徳島県内で今年確認された感染者の数は昨年と同水準だが、7月には80代女性がSFTSで亡くなり、重症化した場合は脅威となることを示した。感染症に詳しい馬原医院(阿南市)の馬原文彦院長(75)は「何より刺されないことが大事だ」と、野山などに出掛ける際は万全の予防策を講じるよう呼び掛けている。
 
 県感染症・疾病対策室によると、今年の日本紅斑熱の患者は全国で178人(8月27日時点)。過去最多だった昨年同期(126人)を大きく上回っている。県内では4月に40代と70代の男性、7月に70代女性の計3人が感染した。

 SFTSも全国的に感染者が急増。8月27日時点の感染者数は69人と、前年同期の39人から大幅に増えている。県内では70代男性と80代女性の2人が6月に相次いで感染。男性は回復したものの、女性は7月に亡くなった。

 馬原院長によると、国内で確認されているマダニは60種類ほどで、県内にはタカサゴキララマダニとフタトゲチマダニなど10種類が生息している。行楽客らは4月から11月にかけて刺されることが多い。

 効果的な予防策として、野山や草むら、茂みの多い場所に出向く際には▽長袖、長ズボンを着用するなど、肌の露出をできるだけ避ける▽「ディート」や「イカリジン」などの有効成分が含まれた虫よけスプレーを数時間おきにふる▽帰宅時にマダニが付着していないか注意深く確認する―などがある。

 ペットの犬や猫も刺されるため、マダニよけの薬を飲ませるなどして普段から気を付けておく必要がある。

 マダニに刺された場合は「払ってみて取れなければ、ワセリンを塗って30分間放置すると、マダニが窒息して取れることが多い」と馬原院長。無理に引っ張ると、皮膚内にマダニが刺した口器(こうき)部分が残るため「医療機関で適切な処置を受けてほしい」と言う。

 刺された後の1~2週間は熱が出ないかどうかを、毎日チェックすることも重要なポイント。馬原院長は「発熱など感染症の疑いがあれば、すぐに病院で受診してほしい。早期治療で重症化が防げる。マダニによって引き起こされる病気があることを知り、その症状と処置を知っておくことが自分自身を守る」と訴えている。

 《日本紅斑熱》リケッチア・ジャポニカと呼ばれる病原体を持つマダニに刺されると感染する。2~8日間の潜伏期を経て頭痛や発熱、かゆみを伴わない発疹などの症状が現れ、治療が遅れると重症化することがある。1984年に馬原院長が阿南市で発見した。
 
 《SFTS》6日~2週間の潜伏期後、発熱のほか、おう吐や下痢など消化器症状が出る。有効な薬やワクチンはなく、治療は対症的な方法しかない。感染経路はマダニが中心だが、野良猫にかまれて感染したとみられる50代の女性が昨年、SFTSで死亡していたことが今年7月に判明した。