大きくひび割れた擁壁。この上に住宅が立ち並ぶ=徳島市八万町の中津山住宅団地

中津山団地の地図

 「私の団地には災害危険箇所が多いにもかかわらず半世紀もの間、民間業者が開発中との位置付けで行政が手出しできない。防災対策は期待できず、雨が降ると怖くて夜も眠れない」。徳島新聞「あなたとともに~こちら特報班」に住民からSOSが寄せられた。徳島市の眉山中腹にある現場を訪ねると、高い擁壁の上に家が立ち並ぶ要塞のような団地だった。コンクリートの擁壁は老朽化が進み、崩れそうな場所も目立つ。取材を進めると、施工業者の倒産に伴い「置き去り」にされた住民や事業主の苦悩する姿があった。

 現場は徳島市八万町の中津山住宅団地(92戸)。1970年に徳島県の許可を受け、市内の寺院が事業主となり、別の施工業者が請け負う形で開発工事が始まった。施工業者のずさんな工事で造成は設計図と懸け離れた状態で進み、97年には台風19号の影響で大規模な山腹崩壊と擁壁の崩落が発生し、5世帯が住まいを放棄する事態になった。

 業者は復旧工事のさなかに倒産。県は行政代執行で2度の応急工事を行ったものの、以降は「民間の開発に税金を投入できない」として、恒常的な対策は実施していない。今なお開発工事は完了しないままとなっている。

 急な坂を上った先にある団地は、山の斜面を切り崩して平地を造成し、家を建てている。周囲には10メートルを超える高い壁が点在し、一部の壁は傾いたり亀裂が入ったりしており、雨が降ると水が噴き出す所もある。山際にある土砂の崩落を防ぐ擁壁も土圧で数十センチずれ、豪雨や強震で山腹崩壊が起きる恐れをはらむ。

 擁壁の安全対策に詳しい徳島大大学院の上野勝利准教授(地盤工学)は「強引な造成工事の影響か、現在の安全基準に適合せず、いつ崩壊してもおかしくない擁壁が目立つ。大地震が起これば基礎ごと崩れる家が続出し、甚大な被害が出る恐れがある。豪雨による土砂災害も心配で、被害は団地のみならず広範囲に及ぶ危険性もある」と警鐘を鳴らす。

 住民は開発の許認可責任を問い、県に倒壊リスクの高い擁壁の恒久的な対策工事を訴えてきた。山腹崩壊などが起これば、事業主の寺院では対応できないと考えたためだ。これに対し、県は「現段階では団地内で災害が発生しても事業主の責任となり、介入できない。事業主には擁壁の安全対策などを再三勧告している。まずは開発事業をやり遂げてもらうしかない」とする。

 事業主の寺院も長年苦しんでいた。寺の関係者は「施工業者が工事や管理を全て任せてくれと言うから事業主として申請したのに、その業者は倒産して責任だけを負わされる立場になった。県が実施した行政代執行の費用も負担したけれど広大な擁壁の安全対策を行うとなると、一体どれほどの費用がかかるのか。できるわけがない」と訴える。

 その上で「県は開発事業を完了させろと簡単に言うが、ずさんな事業を認可した責任はないのだろうか。どういう方向で解決すればいいか、住民らと話し合っていきたい」と語った。

 高度成長期に端を発する開発事業が道半ばで頓挫したことを示すように、山肌の道路は途切れ、その先に続くはずだった場所にはうっそうと木々が生い茂っている。住民の男性(71)は高い擁壁を眺めながら「実際に災害が起こらないと、どこも動いてくれない。誰かに死ねと言われているようなものだ」と話した。