瀬戸内寂聴さんや岡本太郎さんらのサインが残る店内と、オーナーの川端さん=徳島市助任橋4の「人形の家」

 徳島市助任橋4の老舗フランス料理店「人形の家」が、52年の歴史に幕を下ろした。本格的な欧州料理とワインの店として県内外の名士や文化人らに親しまれてきたが、新型コロナウイルスによる売り上げの落ち込みを受けてオーナーの川端富美子さん(71)=鳴門市=が苦渋の決断を下した。

 店は1968年、川端さんが徳島にフレンチの魅力を伝えることを目指し、親族から土地や建物を借りるなどして開業した。店名は女性の自立を描いた劇作家イプセンの戯曲にちなんで命名。柱や梁が白壁から露出した「ハーフティンバー」と呼ばれる建築様式の洋館と、館を覆うツタが独特の存在感を放っていた。

 川端さんが年に数回渡欧して調度品や食材を買い付け、フランスやベルギーなどから招いたシェフが腕を振るった。ビンテージワインも豊富で、県内外の財界人や文化人らに長年にわたり親しまれてきた。

 ところが、新型コロナウイルスが広がった3月以降、会合や外出を自粛する動きが広がり、予約のキャンセルが続出。売り上げが減少したため、4月に休業に入った。新型コロナの収束が見通せない状況に加え、月々のしかかる人件費や家賃の負担に耐えかね、店を再開しないまま廃業することにした。

 壁面は国内外の来店客によるメッセージで埋め尽くされている。その中には瀬戸内寂聴さんや芸術家の岡本太郎さん、数学者秋山仁さんの名前もある。

 「食文化やワインについてお客さまと語らうのが生きがいだった。できるなら、この壁を持って帰りたいくらい」とメッセージを見つめる川端さん。「長い間、店を愛してくれたお客さまには感謝をしてもしきれない。お金に換えられない宝石のような思い出をたくさんくれてありがとうと言いたい」と語った。