郷愁を誘うデザインや機能が愛されている「レトロ自販機」がユーチューブやSNSで話題を集めている。1960年代半ばから80年代にかけて全国各地で設置され、温かいうどんやカレーライスなどを販売する形態が地元住民や長距離トラックの運転手らに親しまれてきた。しかし、80年代以降のコンビニエンスストア台頭に加え、近年は機械の老朽化やオーナーの高齢化で閉鎖が相次ぎ、絶滅の危機にひんしている。今回は「徳島レトロ自販機探訪」と題して、徳島県内にあるレトロ自販機の聖地を巡った。

21台の自動販売機が並ぶコインスナック御所24=阿波市土成町吉田

 阿波市土成町の県道鳴門池田線沿いにある開業40年目になる24時間営業の「コインスナック御所24」。ここには全国的に珍しいボンカレーライスの自販機がある。前面には落語家笑福亭仁鶴さんの若き日の写真と一緒にカレーが映り「お持ち帰りもできま~す」の文字。そのたたずまいには古き良き昭和レトロの風情が漂う。

若き日の笑福亭仁鶴さんが目印のカレーライス自販機=阿波市土成町吉田

 コインスナック御所24の開業2年目に設置されたこの自販機は、かつてテレビの全国放送で話題となった。それをきっかけに全国のマニアが「聖地巡礼」とばかりに訪れており、今もユーチューブなどで紹介され続けている超レア物だ。

 300円を入れ、中辛と辛口の選択ボタンを押すと、機内で保温された白飯とレトルトパックのカレー(「ボンカレー」ではなくハウス食品の「咖喱屋カレー」!)がセットで出てくる。それを購入者自身が白飯にかけて食べる。ピーク時の80年代は1日50~70食も売れていたという。

 白飯は、経営する吉本忠さん(78)=同市土成町=が毎朝、近くで栽培するコシヒカリを自宅で炊いて容器に入れる。機内には中辛、辛口各15食を詰め込めるものの、現在は機械の不調で中辛は販売中止。それでも1日20~25食は売れる。常連客に加え県外からの固定ファンもおり、1日1回補充している。

 この自販機は既にメーカーでは製造を中止しており、故障した場合は修理する方法がない状態。吉本さんは「壊れたら諦めるしかない」と言い「以前はいっぱいあったこの自販機も今では全国的に貴重だと聞く。動く限りは大事に使っていきたい」と話す。

レトルトカレーと白飯のセットを補充しているオーナーの吉本さん

 この場所には他に「うどん」と「軍手」の自販機という貴重な筐体(きょうたい)もある。残念ながらいずれも稼働しておらず、吉本さんが長年の愛着から一種の展示物として置いている。コインスナック御所24は今や訪れた人を楽しませるレトロ自販機の殿堂としても輝きを放っている。

全国的に有名な手打ちうどん自販機がある「めん処 かねか」=つるぎ町貞光

 徳島自動車道が開通する以前は、多くの長距離トラックが行き交った国道192号線沿いにある「めん処 かねか」(つるぎ町貞光)。その店先にあるのが、現在稼働している県内唯一の手打ちうどん自販機だ。

 300円を入れてボタンを押すと、25秒ほどで取り出し口に熱々の天ぷらうどん。めんは店長の重本拓宏さん(38)=つるぎ町貞光=がその日の朝に打ったもので、細くもちもちとした食感が醍醐味(だいごみ)だ。かつお節や昆布から取った本格的なだしを自販機用に濃いめにアレンジし、ぷりぷりとした歯ごたえのエビの天ぷらやネギも添えられている。

長年稼働している手打ちうどんの自動販売機=つるぎ町貞光

 稼働時間は閉店間際の午後4時半から翌午前10時半頃。夏場には近くの剣山の登山客やバイクのツーリング客、外国人遍路などが訪れ、SNS上では「登山で冷えた体を温めてくれる幸福の一杯」、「自販機うどんでは全国ナンバーワンのうまさ」などと絶賛のコメントが並ぶ。

 重本さんは「函館から食べに来たという人もいた」と驚く。他にも、美馬インターチェンジ(IC)や脇町ICでわざわざ一般道に一度降りて、自販機を経由する運転手もいるという。

 重本さんの父親で創業者の昇一さん(67)が余っためんを有効活用すると同時に、営業時間外にも自慢のうどんを味わってもらおうと約25年前に設置し、今も1日20食ほど売れている。「天ぷら」と「きつね」の2種類あるものの、現在は基板の故障により天ぷらのみを販売している。

 この自販機を1975年から95年まで製造した富士電機(東京)が生産を中止して久しく、修理するための人材も部品も設備もない状態。重本さんは「機械が動くうちはマイペースで販売するだけ。興味があれば立ち寄ってほしい」と、今日もなじみのレトロ自販機に手作りめんを詰め込んでいる。

開店中から少しずつめんを詰め込んでいる店長の重本さん