阿波踊りの在り方について話す参加者=徳島新聞社

 収束の兆しが見えないコロナ禍。関係者は阿波踊りがない「ぞめきの響かない夏」をどんな気持ちで迎えているのか。「徳島の宝」である阿波踊りの魅力に磨きをかけるには、何をすればいいのか。戦後初の全面中止を機に、ここ数年来議論が続いている運営面や開催スタイルも含め、理想とする阿波踊りの在り方を踊る阿呆(あほう)と見る阿呆の双方に話し合ってもらった。

【参加者】
 蜂須賀連 藤井裕義副連長(47)
 阿波天狗 池淵氏信連長(49) 
 四国大学連 藤本舞香副連長(21)
 両国本町商店街振興組合 高橋良典理事(45) 
 徳島市の阿波踊り公式ポスターを長年手掛けたコピーライター 新居篤志氏(55)
 進行役 阿波踊り情報誌発行・猿楽社 南和秀代表(52)

踊りのない夏

 ―踊りのない夏をどんな気持ちで迎えているか。

 藤井 やむを得ないとはいえ、心にぽっかり穴があいたようだ。2月から連の活動を休止している。連員の間にも踊りたいというより、抑えないといけないという気持ちの方が勝っていると思う。デビューを控えていた新人のことも気掛かりだ。

 藤本 連を引っ張る立場なので喪失感はなおさら大きい。6月の練習再開後はモチベーションが上がらなかったけど、新たに約20人が加入してくれたおかげで雰囲気が良くなった。目標を学園祭に切り替えて、基礎から踊りをやり直している。

 池淵 6月に練習を再開し、できることに取り組んでいる。イベントの出演依頼を受けた際にいい踊りができるよう構成を変えて準備しているが、なかなかうまくいかない。でも、参加人数が少ない分、目立つ位置で踊れるのが連員の励みになっている。

 高橋 お盆の4日間とも桟敷席のない商店街を見るのは初めてになる。踊り連を迎えられない無念さだけでなく、書き入れ時を失ったことで商店街全体がショックを受けている。

 新居 これまでなら4日間のうち、少なくとも3日間は街に繰り出していた。全国で祭りが中止されているので仕方ないが、踊りがないという実感は今も湧かない。12日が来れば、「あれっ」という不思議な感じになるだろう。

 ―お盆をどう過ごす。

 池淵 公園などでゲリラ的に踊る人がいるかもしれないので、徳島市内を1回はのぞくつもりだ。踊りが見られるのを期待して、車を走らせる県民はいるだろう。

 高橋 毎年8月14日に徳島商工会議所の連で踊り込んでいる。それができないのは寂しいので、同じような気持ちのメンバーとささやかに踊るかもしれない。

 藤井 4日間全て仕事をして、踊りのことを忘れたい。

 藤本 大学のテストがお盆期間と重なっている。勉強とアルバイトをして、ごく普通に学生生活を送る。

コロナ下の発言

 ―結局のところ、阿波踊りは徳島の人にとって必要か。私たちにとって踊りとはどういう存在なのか。

 新居 私は踊っていなくても阿波踊りのDNAを感じている。街の雰囲気は好きだし、誇りだと思う。ある意味、県民の一部といえる。中止になってもそこら辺で踊る人が出てくるだろうと思えるところが阿波踊りだ。

 池淵 踊りに携わっていない人も魅力を感じられる阿波踊りでなければ必要ない。踊りに携わる人だけが盛り上がるのは良くない。いろんな楽しみ方があるので、来年も来たいと思える祭りにしたい。

 新居 阿波踊りは三好市池田町や鳴門、吉野川、阿南の各市などでも行われている。新型コロナの影響で近場の旅行を楽しむ「マイクロツーリズム」が注目されている。各エリアの踊りがテーマ性を持てば、巡ってもらいやすい。昔ながらの風流な踊りを求めるなら池田町がお薦めだ。

 ―コロナ禍が続く中、踊りをどう発信すればいいか。

 藤本 有名連がオンラインで練習する様子を会員制交流サイト(SNS)に投稿しているのを見て、面白いと思った。大学連の友達は踊りや鳴り物の自撮り動画を集めるプロジェクトに参加した。SNSに興味がある人は多いので、そうした取り組みが広がればいい。

 藤井 踊りが来年中止されても、有名連の一員としてできることはある。踊りを始めたい人がいれば、支援したい。SNSでもいいので成果を披露できる場所を確保し、踊りを盛り上げたい。後継者がいないと衰退してしまう。

有料演舞場

 ―収束が見えないコロナ禍。踊り連の維持運営にどんな影響が出ているか。

 藤井 公演活動や祭りの参加によって得られる収入が全くない。活動を再開しても、太鼓や三味線などを新調できないだろう。他の有名連も同じように運営費の悩みを抱えていると思う。

 藤本 熱中症のリスクを考えると、マスクを着用して練習するのは厳しい。飛沫が出ないよう掛け声をやめ、連員同士が十分な間隔を取るようにしている。屋外など換気のいい場所を選んでいる。

 池淵 マスクを着けて練習している。体育館は暑くなりやすく、休憩を多めに取っている。

 藤井 コロナ禍が長期化すればするほど、連を元に戻すのが難しくなる。1年間練習を続けてやっと踊れるようになり、体力もつく。冬場に練習を再開しても、夏の本番に間に合うかどうか。全体の構成も決まらず、体の負担も大きくなる。踊れない間に別の趣味を見つけてやめる連員も出るだろう。

 ―有料演舞場は観客が減り、踊りの開催スタイルは曲がり角にきている。

 新居 興行事業なのに、代わり映えのない構成になっているのが一番の問題。ここ数年、運営サイドは調整とお墨付きしかせず、企画は一切出していないはず。ブランディングもしていないだろう。だから行き詰まってしまった。立て直さないといけない。

 池淵 演舞場には、予約や待機をしてまで踊る魅力がない。同じような踊りばかり続くので、15分以上観客席にはいられない。値打ちのある有名連の踊りならいいが、芸能人を含む素人で構成された企業連の踊りを長時間見せられるのはたまったものではない。僕らとしては路上で独創的な踊りを見てもらう方が楽しいし、自分たちを求めて路上に来る観客は大歓迎だ。

 新居 くしくも興行会社のキョードー東京が運営に入っている。どんなスタイルの事業化があり得るのか。阿波踊りが盛り上がってもうかり、人が集まる企画を提案してもらいたい。ハッパを掛け、いろんなアイデアを出してもらうことが生き残る道だ。

マンネリ打破

 ―踊りの開催スタイルはマンネリ化している。どうすべきか。

 池淵 演舞場の数を減らせばいい。例えば両国本町と秋田町を一つの演舞場にする。人が座らず流し歩きするような歩行型の桟敷にすればどうか。さらに紺屋町や南内町に休憩所をつくったり、東新町商店街を空調の効いた空間にしたりすれば人が集まりやすくなる。藍場浜公園では踊りコンテストや若者向けのダンス大会を開いて、活性化を図れば面白い。踊り期間にここでしか味わえない食べ物を開発し、人の移動が楽になる乗り物を導入すれば、テーマパークのようになる。従来の見る、踊るだけでは魅力のある祭りにはならない。

 藤本 観客のニーズに合った多様化が阿波踊りにも必要。昨年、東京・高円寺の阿波おどりに、徳島と関東の学生による合同連で踊り込んだ。演舞場の観客から「頑張れ」と声を掛けてもらい、アットホームな感じがした。

 藤井 徳島と高円寺では雰囲気が全く違う。徳島は観客に見られているから、きっちり態勢を整えて踊ろうとしているにすぎない。これに対し、高円寺は見る側と踊る側が一緒に祭りを楽しんでいる感じで、阿波踊りの原点に近いものがある。踊る側としては高円寺の方が楽しいし、一体感が伝わってくる。高円寺のようにみんなが楽しめる演舞場に変わるべきだろう。

 高橋 高円寺と徳島の違いとして、高円寺は地元商店街が演舞場を運営している点が挙げられる。行政から3千万円の年間運営費が出ているのに対し、両国本町商店街には18万円しか出ない。高円寺は多大な補助金をもらった上で自主運営して業績を挙げ、黒字化に成功している。

 池淵 高円寺では有名連や招待された連は無料で踊れる。しかし、われわれのような一般の連は出演料として5万円かかる。

 高橋 高円寺のように商店街が自主運営できる権利を持つと、祭りを成功させようとする機運が高まる。毎年黒字化できるのは、踊り手と観客から祭りに対する意見を聞き、それを事業に反映させようとする姿勢があるからだろう。踊っていて楽しいので、一般の連はある程度の出演料を取られても踊りたくなる。

 ―関東近郊の連は高円寺で踊るのがステータスだと聞く。出演料が10万円もした年もあったが、それだけ払っても踊りたいようだ。

 藤井 徳島も高円寺のようになってほしい。マンネリ化するのではなく、踊る側も見る側も変わろうとしないと前に進めない。

 ―とはいえ、徳島が高円寺に勝っているところはある。演舞場の臨場感で劣っていても区画内でしか踊れない高円寺に対し、徳島ではすいている場所があればいつでも踊れる。

 池淵 富田町では三味線だけで踊っていて、風流でコンパクトな感じは徳島独特だと思う。街中の粋な雰囲気はこれからも大切にするべきだ。

 ―昔の文化的な雰囲気を守りたい人もたくさんいる。急に形を変えて興行として成功しても、悔いが残ることになるかもしれない。

 新居 街全体がうねっているような高揚感を忘れてはいけない。そんな踊り特有の雰囲気に多くの人が魅せられている。

 ―一方でここ数年の阿波踊りは面白くない。運営を巡るもめ事があって、いい雰囲気ではない。踊り手は以前と同じテンションを保てているのか。

 藤井 おそらく保てていない。もめ事があればあるほど、有名連やそれ以外の連も一体感がなくなるし、踊りを楽しめなくなる。

魅力を磨くには

 ―理想とする阿波踊りの在り方は。踊りの魅力に磨きをかけるには、何をすればいいのか。

 池淵 伝統的な祭りなので、変わるには勇気がいる。阿波天狗を例に挙げたい。有名連と同じ土俵で闘っても確実に負けるので、新たなスタイルを追求して表現しようと思った。珍しい、変わったことをする連がいた方が祭り自体が盛り上がり、楽しいはずだ。人前で初めて踊った時は「一体何がしたいの」という疎外感を受けた。けれど「変わった踊り方が面白い」と喜ばれるようになり、自信を持って人前に出られるようになった。ここまで来るのに十数年かかった。

 ―思い切って違うことにチャレンジする踊り連がもっと出てくれば、有名連が正統派として引き立つ。

 新居 昔から有名連は絶対的に魅力的な存在で、必要なコンテンツに違いない。ただ有名連だけを特別扱いしてはいけない。バランスが大切だ。興行を目的に進化してきた祭りだから、格式や伝統を重んじるだけではこの先駄目だと思う。良い面を残しながら新しいものをどんどん取り入れて生まれ変わるべきだ。

 高橋 誰でも気軽に参加できる「にわか連」を進化させてほしい。どの参加者も一見楽しそうだが、私服のまま両手を挙げて歩いているだけ。正規の衣装を着て踊りたいのではないか。そろいの法被や足袋を配布してはどうだろう。誰もが心から笑顔になれ、徳島でまた踊りたいと思ってもらえるはずだ。

 新居 浴衣を身に着けずに演舞場で踊ることほど恥ずかしいことはない。

 藤井 踊りチケットに衣装を付けたら、いい記念になる。

 高橋 本番前の練習で太鼓や鉦をたたいてもらえば、喜んでもらえる。

 藤井 踊りを見るだけで帰るのと、体験して帰るのとではリピート率が全く変わってくる。

 池淵 にわか連に欠かせない「盛り上げ隊」は、踊る前に雰囲気をピークにするのですごく盛り上がるし、集客力も大きい。ちょっとした工夫で観客を楽しませている。そういう意識が大切だ。昔は両国本町周辺で「わっしょい踊り」が盛んに行われ、活気があった。個性的なファッションの仲間同士が、何をするわけでもなくわっしょいと盛り上がる。阿波踊りの原点といえる。ハロウィーンや「マチ★アソビ」のように、阿波踊りでも仮装して大勢で踊ればきっと楽しいはずだ。

 藤井裕義(ふじい・ひろよし)さん 23歳で蜂須賀連に入り、2018年から副連長。県阿波踊り協会のスタッフを務め、選抜阿波おどり前夜祭の踊り構成などを考えている。

 新居篤志(にい・あつし)さん 2011年から7年連続で、徳島市の阿波踊りの公式ポスターをデザイナーと共同制作。運営を巡る混乱が表面化した18年は自主制作した。

 池淵氏信(いけぶち・しのぶ)さん 2006年に阿南市を拠点に阿波天狗を立ち上げ、連長に就いた。正調をベースにした「和舞パフォーマンス」を主に路上で繰り広げる。

 藤本舞香(ふじもと・まいか)さん 有名連に所属する叔母の影響で阿波踊りに興味を持ち、2018年に四国大学連に入った。20年から副連長と女踊りのリーダー。

 高橋良典(たかはし・よしのり)さん テーラーボストン屋の3代目。2017年から両国本町商店街振興組合理事。19年に東京・高円寺パル商店街と友好協定を締結した。

 南和秀(みなみ・かずひで)さん 2004年に阿波踊り無料情報誌「あわだま」を創刊。19年に猿楽社制作の阿波踊りポスターがドイツデザインアワードで第2席を受賞した。