4週連続でお薦めホラー映画を紹介する「真夏のホラー祭り」。ラストを飾るのは日本映画「女優霊」(1996年、中田秀夫監督、柳ユーレイら出演)だ。人気ホラーキャラクター「貞子」が登場した「リング」(98年)の中田監督のデビュー作。露骨な残酷描写や効果音に頼るのではなく、繊細な演出の積み重ねで背筋がゾクッとする恐怖心をじわじわとわき上がらせる。「リング」から始まった90年代末のジャパニーズホラーブームの先駆けとなった作品だ。

 

 新人監督の村井はデビュー作の撮影中、仮編集フィルムに未現像のものが1本混じっているのに気付く。そこには謎の女と人影が映っており、かつて製作中止になった作品だと分かる。村井がフィルムを見て以降、撮影現場で奇怪な出来事が起こり始め、ついには出演女優が撮影中に変死する事件が発生する。

 ロケ現場となった映画撮影所で実際に伝わる怪談話にアイデアを得て、実話テイストに仕上げている。実際の心霊映像や心霊写真と似た手法をシーンの中に取り入れており、生々しくも嫌な違和感を演出してみせる。

 

 幽霊は時に画面の片隅、時に鏡や窓の枠越しにさりげなく一部だけを映り込ませる。全体像を見せず、どの角度でどの程度見せれば恐怖が増すのか、見えるか見えないかの微妙なさじ加減へのこだわりが全編にわたって貫かれている。

 さらに登場人物の目線の動きや表情の変化、周囲の物音やカメラの変調、そして死体の様相など演出の細部まで工夫を凝らしながら、小さな違和感を少しずつ創出。それらをちりばめ、ジャパニーズホラーの真骨頂と言える、にじみ出る恐怖を生み出す。

 「リング」で貞子のキャラクターを確立した中田監督と脚本家・高橋洋が初めてタッグを組んだ本作。劇中の幽霊は貞子の原型と言える仕上がりになっており、小さな違和感の積み重なりが大きな破綻へと至るクライマックスは衝撃的だ。のちの「リング」をほうふつさせるシーンが随所に盛り込まれており、まさしくジャパニーズホラー誕生前夜の肌触りを感じ取れる作品になっている。(記者A)

【記者A】映像ソフト専門誌編集者、フリーの映画ライターを経て徳島新聞記者を務める。映画関連記事の編集や執筆、インタビュー、ロケ現場の取材などに長年携わり、1年間で365本鑑賞した年もあるなど、映画をこよなく愛する。