「もし感染して入院したら、パートナーと連絡が取れるだろうか」「周囲に自分のセクシュアリティが分かってしまうのでは」。新型コロナウイルスの感染が広がる中、性的少数者が抱える不安は大きい。当事者や支援者でつくる「レインボーとくしまの会」は、徳島県内の各自治体で近く始まる9月議会に向け、性的少数者のカップルを公的に認める「パートナーシップ制度」の導入を求めた陳情書を県内7市議会に一斉提出した。「このコロナ禍の中だからこそ、多様な形の家族があることを世の中の人に知ってほしい」と言う代表の長坂航さん(42)=徳島市、飲食店経営。陳情書に込めた思いを聞いた。

 長坂さんは2019年9月、「レインボーとくしまの会」を結成し、住んでいる徳島市でのパートナーシップ制度導入に向け、署名集めや議員への説明を始めた。徳島市議会への陳情はいったん継続審査になったものの、昨年の12月議会で採択された。今年4月、県内自治体に先駆けて「パートナーシップ宣誓制度」が導入され、長坂さんとパートナーは第1号として認証を受けた。

 「活動を始めた頃は、『時期尚早』『県内に先行事例がない』と言われることも多かった。ある自治体では『当事者からそんな相談はないから、実態調査をしたい』とも言われました。世の中の理解がないから、当事者は相談することも、声を上げることもできないのですが」

 「今回、三好市、美馬市、吉野川市、阿波市、鳴門市、小松島市、阿南市の7市議会を回り、いろんな議員らと話す中で、そんな声はなかった。やはり、徳島市で制度が導入された効果が大きいなと感じました。『本来は国や県が制度をつくらないといけない。ないのだから自治体から始めたい』という言葉も聞けました」


濃厚接触者として同性パートナーのことを言える世の中?


 ー新型コロナウイルスが広がる中、感染すれば自分のセクシュアリティが暴露(アウティング)されるのではないかと不安を抱く性的少数者は多い。感染者の立ち寄り場所や同居者が行政によって公表される場合もあるためだ。

 「コロナ禍は長期化しそうです。だからこそ、一斉陳情をしました。例えば、同性パートナーと同居している人が『感染したかもしれない』と相談センターに電話をする。感染していたら、濃厚接触者として同性パートナーのことを言わないといけない。医療機関や行政の人にどういう反応をされるか不安。公表された情報を見た人は、『どういう関係だろう』と思いますよね。相談自体をためらってしまいます」

県内7市議会に陳情書を提出した長坂さん=徳島市内


 「自分が感染して入院した場合に、パートナーと連絡が取れるだろうかと心配する声も多い。家族として認められていないからです。私は4月、徳島市からパートナーシップを認証するカードを受け取りましたが、このカードがあるかないかってすごく大きいんですよね。これを見せるだけで関係が証明できる。なければ、何十年一緒に住んでいても、口頭で説明するだけ。『ほんまですか?』と言われる。『同性愛者なんですか』と聞かれることもあります」


箱物を建てるような予算は不要。必要なのはカードのラミネート加工代ぐらい


 ー同性婚の実現に向けて活動する一般社団法人「Marriage For All Japan」は5月、国に対して救急搬送や治療方針の説明などの際に、同性パートナーを家族として扱うことや、患者情報の公表に際し、性的少数者のプライバシーを不当に侵害しないことを求める要望書を提出している。

 「『医療機関や行政で働く人には必ず、性的少数者への理解がある』。そんな安心感があれば、相談センターにも電話ができる。でも今、残念ながらそうはなっていないんじゃないでしょうか。世の中の理解を深めていくためにも、パートナーシップ制度の導入により、多様な家族の形があることを自治体が発信してほしいと思います」

長坂さんが受け取ったパートナーシップを証明するカード

 ーレインボー徳島の会によると現在、パートナーシップ制度を導入している自治体は57(8月1日時点)。四国では、2020年1月に香川県三豊市が初めて導入した。同性カップルが提出した婚姻届を不受理にしたことがきっかけだ。徳島市と同時に4月に導入した香川県高松市では、2019年の市長選で無投票当選した大西秀人市長がマニフェストで制度導入を掲げていた。一方で香川県丸亀市では、議員の反対で、要綱まで出来上がっていたパートナーシップ制度の導入が宙に浮いたまま。問われているのは首長や議会の姿勢だ。

 「『レインボーとくしまの会』をつくってから半年で、徳島市では制度ができました。箱物をつくるのとは異なり、制度導入には予算も要りません。必要なのは、認証カードのラミネート加工代や印刷費ぐらいです。首長や議会に理解があれば、半年で成立までこぎ着けられる」

 「制度を導入しても、すぐに申請者は出てこないかもしれません。認証を受けるため、市役所に電話をして予約を取り、出向いて説明するということ自体、カミングアウトしていない人にとってはとてもハードルが高い。それでも、制度ができることで、認められたと感じられます」

 「『誰もが住みやすい町に』『多様性のある町づくり』などとビジョンを掲げる自治体はとても多い。『人権の尊重』もそうです。そう目指すのならぜひ、今できることに取り組んでほしい。そうじゃないと、私たちは『いないもの』として扱われている気分になります」。



 【陳情とは】国や地方自治体に対して意見や要望を述べる制度。地方議会に陳情する場合、委員会等で審議され、議会で採択・不採択を決定することが多いが、取り扱いは議会によって異なる。
 日本国憲法は16条で、国や地方公共団体に対して国民が意見を述べる「請願権」を保障している。地方議会に対する請願には紹介議員が必要となる。採択した請願について、議会は市長や執行機関に経過と結果の報告を求めることができる。陳情は請願に準ずる制度と位置付けられる。