徳島県植物研究会の木下覺会長(75)=鳴門市北灘町粟田=が、2005年に牟岐町沖の出羽島で発見したカヤツリグサ科スゲ属の固有種を「テバジマスゲ」と名付けた。09年に新種と確認した京都大総合博物館の永益英敏教授(植物分類学)と共に近く論文を発表する。出羽島で植物の新種が見つかったのは初めて。元々は四国本土でも生育していたが何らかの要因で絶滅し、出羽島だけで生き残ったとみられている。
テバジマスゲは常緑の多年草で、葉の長さ15~40センチ、花茎(かけい)の長さ6~8・5センチ。一般的にスゲ属の花茎は葉よりも長く、実が外に突き出た形をしているが、テバジマスゲは花茎が極端に短く、実は葉に埋もれている。雌花と雄花の間隔が短いことや、実の形がひし形をしていることも特徴だ。
木下会長が05年冬に県内の植物分布を調べるため出羽島を訪れた際、島の灯台に向かう途中の遊歩道で群生する植物を発見した。「こんなに珍しい形は見たことがない」と思って調べてみると、日本国内に同様のスゲはないことが分かった。
知人の永益教授に調査を依頼していたところ、永益教授は09年、世界で出羽島にしかないスゲであると結論づけた。永益教授は「離島には生態系を崩す外来種が入り込みにくいため、長い間、島で繁殖し続けることができたのでは」と分析している。
スゲ属は世界中に約1800種類あるとされている。木下さんは「調査を始めた当初は、こんな貴重な植物に出合えるとは思わなかった。発見できたのは、今まで島の草木を大切にしてきた島民のおかげもあっただろう」と話している。
出羽島地区長の田中幸寿さん(73)は「周囲約3キロの小さな島に、世界で唯一の植物があったのは喜ばしい。興味のある人たちが、たくさん島を訪れてくれたらうれしい」と期待を込めた。