日本三大暴れ川の一つである吉野川。豊富な水量を誇り、流域に恵みをもたらす一方、現在の堤防が築かれる以前は度重なる水害が先人を苦しめた。日本全国で水害が多発する現在、毎年のように堤防が決壊し、家々が濁流にのまれる映像がテレビで流れる。堤防の「安全神話」が揺らぐ中、吉野川が再び暴れ川となって破堤した場合、どんな被害が出るのか。国のシミュレーションを活用し、5地点の想定を紹介する。

■重要水防箇所5地点想定

写真を拡大 「洪水時にせき上げが起こる」と国交省が指摘している第十堰(吉野川北岸の上板町側から撮影)

 吉野川に設けられている堤防で、洪水時に決壊や越流のリスクがある「重要水防箇所」を流域図上に示した。国土交通省徳島河川国道事務所(徳島市)によると、無堤地区を含めた総延長は82・5キロ(北岸42・9キロ、南岸39・6キロ)に及ぶ。このうち、想定最大規模(千年に1度クラス、阿波市阿波町岩津上流域で48時間雨量765ミリ)の洪水で破堤した際に浸水が広域に及んだり、甚大な被害が出たりする地点を地区別に抜粋した。

【藍住IC付近】

 徳島県藍住町の徳島自動車道・藍住インターチェンジ(IC)付近は堤防に激しい流れが衝突する水衝地点で、堤防が浸食される危険性が高い。藍住ICすぐ南側の堤防が壊れると、20分後に濁流の東端はゆめタウン徳島、北端は県道徳島引田線と松茂吉野線が交わる交差点付近に到達。2時間後には藍住町全域が水に漬かり、一部では5メートル以上の浸水被害が出る。

 周辺は平野部が多いため浸水範囲は時間の経過とともに拡大する。5時間後には北島町全域や鳴門市大麻町、徳島市川内町の一部に至り、ピークの18時間後には鳴門駅や徳島阿波おどり空港にまで達する。徳島、鳴門、藍住、北島の各市町では1~4メートル浸水する。

【第十堰付近】

 石井町の第十堰(ぜき)周辺は堰によって水位が上がる「せき上げ」が起こり、水圧などの負荷がかかりやすい。堤防の浸食、のり面崩落などのリスクがある。

 第十堰南側の堤防が決壊した場合、まず徳島市国府町方面に水が流れ込み、1時間後には四国霊場17番札所・井戸寺付近に到達。2時間後には四国三郎橋南詰め、府中駅、フジグラン石井にまで浸水被害は及ぶ。被害のピークは破堤から9時間後で吉野川、鮎喰川両堤防に挟まれた徳島市不動地区では最大浸水深が8メートルを超える地点も出る。同市国府町や石井町でも5メートル以上の浸水が相次ぐ。

【鴨島駅付近】

 吉野川市の鴨島駅北側の堤防はのり面崩落や漏水の恐れがある。破堤すると、水は放射状に拡散し、20分後には駅付近に到達。その後、東側へ進み、2時間後には徳島名西署石井庁舎周辺に達する。浸水範囲、浸水深とも8時間後が最大で徳島市の上鮎喰橋西詰め周辺にまで及ぶほか、鴨島町の江川沿いでは5~7メートルほどの浸水被害が出る。

【四国三郎の郷付近】

 美馬市の県立オートキャンプ場・四国三郎の郷(さと)南側の堤防が壊れると、海抜が低いため周辺は最大14メートルを超える浸水被害に見舞われる。氾濫のピークは5時間後で、土地が高い場所に建てた四国三郎の郷や、近くの県立西部防災館も1~2メートルほど浸水する。

【ぶぶるパークみかも付近】

 国交省が2015年度から築堤中(延長4・5キロ、工事進捗率14%)の地域。ほぼ無堤のため氾濫すると、東みよし町のパークから三三大橋までの広範囲から水が流れ込み、20分後には国の特別天然記念物「加茂の大クス」に到達する。2時間後には阿波加茂駅や町役場周辺、3時間後には三加茂駅、江口駅にも達する。ピークは5時間後で2~11メートルほどの浸水被害が出る。

 《地点別浸水シミュレーション検索システム(浸水ナビ)》 国や都道府県の洪水浸水想定区域図を活用し、国土交通省が2015年からウェブ上で公開しているシステム。地図上で調べたい河川の破堤地点を選び、浸水域や深さを時系列のアニメーションで表示する。特定の地点や地名を決めて浸水深が最大になると想定される破堤点を調べることもできる。県内では吉野川、那賀川、勝浦川、園瀬川、宮川内谷川、桑野川、海部川の7河川で検索できる。

■重要水防箇所 洪水時、破損や漏水の恐れ

 重要水防箇所は、洪水時に堤防が崩れたり、洪水が堤防を越えたりする恐れがあり、重点的な見回りや点検を必要とする箇所を指す。堤防の高さや大きさ、過去の災害実績などから「被災する可能性が高い区間」と「被災する可能性がある区間」の二つに分けられる。

 吉野川では▽無堤や堤防の高さ不足の区間18・8キロ▽のり面が崩れるなどの恐れがある「法(のり)崩れ・すべり」区間36・6キロ▽漏水の恐れがある「漏水」区間9・2キロ▽水流で護岸が削られるなどの恐れがある「水衝・洗掘」区間14・8キロ―がある。

 国交省徳島河川国道事務所は随時堤防の点検を行い、水防箇所の見直しを毎年進めている。事務所は「堤防周辺から茶色く濁った水や土が噴き出すなど異変を感じたら通報してほしい」としている。