そごう徳島店が8月31日、閉店した。新型コロナウイルスの感染拡大が続く影響で、セレモニーもなければあいさつもない。シャッターが下り始めてから床に着くまで約2分間。店員の「無言のお礼」と県民らの「鳴りやまない拍手」に、37年間の歴史と両者の関係が凝縮し、濃厚な時間が人々の心に刻まれた。

 閉店時間となる午後7時半の約1時間前から、そごう2階の正面入り口前には、最後の瞬間を一目見ようという人が集まり始めていた。店内も大勢の人でにぎわい、商品を手に取り見定めていた。

閉店時間が迫り、入り口付近には大勢の人が詰め掛けた=午後7時半前


 9階に設けられた「そごう徳島店アーカイブス」と題したコーナーでは、オープン当時の映像やスライドが流され、人が群がる。メッセージボードは、客が書き込んだシールがぎっしり貼られた。「夫がワンピースを買ってくれました。たくさんの思い出があります」「修学旅行、初めての1人暮らし、結婚式…、いつもSOGOで買い物しました。お気に入りの物に出合えました」「小学生の頃から、家族でそごうに行くよとなれば、みんな笑顔で特別な時間を過ごせました」「そごうがあったので私の人生が楽しいものになりました」「そごうは私の青春でした。なくなっても絶対に忘れることはありません」

 名札を付けた店内で働く女性もやってきた。「そごうで働けて本当に良かった。よい仲間と出会えたことに感謝します」

 用意していたシールはいつしかなくなった。1人の女性は小さな切れ端を見つけて、わずかなスペースにこう書いた。「子供の成長を見守ってくださってありがとうございました」

 時間は無情だ。7時半が近づく。客の流れは下りのエスカレーターへと向かわせる。そんな動きを感じてか、時計に目をやる店員や警備員の姿が目立つ。

 2階の正面入り口には、既に大勢の人だかりができていた。そごう徳島店のシンボルともいえる大きな時計の長針が「6」を指す。閉店時間の7時半。8人の店員が前に出て、深々と頭を下げた。同時にシャッターが下り始める。詰め掛けた客からは拍手が鳴り止まず、声が飛び交う。「ありがとう」「ありがとう」。店員の頭の辺りまで下りると、ひときわ拍手が大きくなり、「ありがとう」が重なり合う。床に届くまで約2分間。静かに幕を閉じた。

 「ほんまになくなってしまった」「明日から、ほんまに開いてないの」。そんな声とともに人が散り始めようとした頃、歌が聞こえてきた。どこかで聞いたことのあるメロディー。「夏の甲子園」と呼ばれる全国高校野球選手権の大会歌「栄冠は君に輝く」だ。

 ただ、歌詞が違う。「堂々と目指せ四国一 あーあーわれらの徳島そごう」。声を張り上げていたのは、OBやOGだった。

閉店後、そごうのロゴマークが外される=8月31日午後10時頃

 

 OBに聞くと、「徳島そごうの歌」という。1983年10月のオープン前に作られ、民事再生法の適用を申請し、徳島そごうからそごう徳島店になるまで歌われてきたそうだ。なぜ「栄冠は君に輝く」の替え歌なのかは、当時の時代背景に由来する。開設準備を進めていた頃、池田高校野球部が快進撃を遂げていた。オープン前年の82年には、徳島県勢としては初めて「夏の甲子園」で全国優勝を果たす。翌83年には「春の甲子園」でも優勝し、夏春連覇を達成した。OBの一人は「池田高校のように勢いのある店を目指したのではないだろうか」と話した。

 9月1日、再び2階の正面入り口に立った。大きな時計の両側にあった、そごうのロゴマークは外されていた。行き来する人は少なく、ひっそりとしていた。静けさの中に立っていると、なぜか前日のシーンがよみがえる。喪失感が街を覆っていた。(卓)