写真を拡大 らぁめん「黒」(700円)。牛骨スープと自家製ダシ醤油が織りなす魅惑の味わい。

古住直弘さん(33・石井町出身)

 外壁の赤と黒の配色がほとばしる気迫を思わせる店構え。筆文字で「牛」と書かれた暖簾に向かって、駐車場からレッドカーペットがまっすぐに伸びている。ここは県内、いや全国でも珍しい牛骨ラーメンの専門店だ。牛骨のみから取るスープをベースに、煮干しや削り節、数種の野菜、牛ミンチなどで作る醤油ダレを合わせた「黒」、牛乳と生クリーム、タマネギなどでホワイトソース風にアレンジした「白」、昆布や煮干し、セロリなどを組み合わせて爽やかに仕上げた「塩」(各700円)を展開する。

 「お客さんへの最上級の歓迎の意味を込めて、入口にレッドカーペットを敷いてます。ゴム製の床材に赤のさらしを貼って手作りしたんです。だいぶ色褪せてきたけん、そろそろ作り替えんとなぁ」と明朗に話す店主の古住直弘さん。頭に巻いたタオルからコック服、長靴に至るまで全身を黒で決めた佇まい。一見いかつそうに見えるが、とても気さくでお客に慕われている。取材日は偶然にも誕生日だったらしく、入店してきた常連客が次々とおめでとうの言葉をかけている。

写真を拡大 手作りのレッドカーペットを敷いてお客を迎える古住さん。28歳の時に店を開き、 今年11月に5周年を迎える。

 古住さんは石井町で割烹料理店を営む両親のもと育った。幼少期から両親の手伝いを通して魚のさばき方や味覚、大人との会話のキャッチボールが自然と身についていったという。高校を卒業後、家業を継ぐことも頭をよぎったが、まずは外の世界でやりたいことをやろうと21歳で保育園の先生になった。そんな矢先、父が脳卒中で急逝する。道半ばで保育士を辞め、店のサポートに入るが、日本料理人としての修業を積んでいない自分の力不足に気がつく。不幸は重なり、間もなく母も病気で他界。家業を畳んだ古住さんは、27歳まで徳島市内の飲食店でがむしゃらに働く。「その頃よく徳島ラーメンの食べ歩きをしてたんです。気に入った店には1日3回行くほどハマって、そこの店主に呆れられるほどでした(笑)」。そして「ラーメン屋になる !」と一念発起。独学でオリジナルのラーメン作りを始める。「豚骨でダシが出るんやけん牛でも出るだろ、っていう単純な思いつきで牛骨に決めました。牛骨のほうが大きい分、いっぱいスープ取れるんちゃうん !?って。これが試練の始まりで…」。

 早速、精肉店に行って牛の大腿骨を分けてもらい、試作に取りかかった。牛の骨は太くて固く、なかなか割れない。ハンマー、鉄ノコ、ドリル…と思いつく限りの道具で立ち向かうが歯が立たない。最終的に、ホームセンターで見つけた両刃のナタでなんとか割れた。やっとのことで牛骨を煮込み、取れたスープでラーメンを作ってみるも、試作1号は脂分が多すぎて脂の味しかしなかったという。牛骨は作業に手間がかかるうえ、量的にも効率よくダシが取れるわけではないことを痛感した。それでも諦めず、失敗を繰り返しながら素材の足し算・引き算を重ね、味を完成させていった。心を許した人や友達、親友たちに支えられ、足掛け1年余りで暖簾を揚げた。

 「レシピを考える時、これとこれを足したらどんな味になるか頭の中で味を組み立てるのが得意」。そう話す古住さんが生み出した看板メニューの「黒」。熱々のスープをレンゲですくって一口すすると、コク深いのにすっきりクリアな後味に驚く。牛骨のダシならではのほのかな甘みと香り、そこに魚介の節や野菜の旨味が溶け出した醤油ダレが絶妙に合う。牛骨スープをクリーミーに仕立てた「白」は、クラムチャウダーを思わせる革新の一杯。さっぱりシンプルな「塩」にも固定ファンが多い。次は色鮮やかな食材を使ってSNS映えするラーメンを作れないか構想を練っているところだ。

写真を拡大 らぁめん「白」(700円)。牛骨スープを牛乳や生クリームで洋風に。タマネギやホタテの旨味などが溶け込んでいる。

 これからの目標について「思いつきで人生賭けてしまったんで、悔いが残らないように自分なりに精一杯やっていこうと思います」と謙虚に言葉を紡ぐ。一瞬のひらめきから始まり牛骨ラーメン道を切り拓いてきた古住さんの挑戦は続く。

 

メニュー
・肉入り(らぁめん代+200円)
・大盛り(らぁめん代+50円)
・チャーハンset(1000円)

住所=藍住町東中富朏傍示54-2
営業時間=12:00~14:30
     17:30~20:30
定休日=火曜休

駐車場:あり
完全個室:なし
多機能トイレ:なし
座敷席:あり
Wi-Fi:なし
開店:2015年