「子どもの言葉にはパワーがある」と話す蕪木Q平さん=横浜市

 児童文学風の小説で、何となく面白いけど、会話の言葉や文章がまどろっこしくて読みにくい―。第3回阿波しらさぎ文学賞に輝いた蕪木Q平さんの「あまいがきらい!」を読んで、そう感じた人も多いだろう。

 だが、それこそが作者の狙いだった。蕪木さんがこだわったのは、子どもたちの生の声。「語彙が乏しくても、文法が正しくはなくても、子どもの言葉にはパワーがある。読みづらさがあったとしても、理屈を飛び越えて、そんな力を伝えられたらいいなと思った」

 作品は新型コロナの影響で一斉休校になる前と、自由だが退屈な自宅待機期間を過ごす小学5年生の少女中川瑞季を中心に、家族や友人を絡ませながら、物語が展開する。

 8月末まで横浜市内の学童保育で児童支援員をしていた。子どもの言動や心理をよく観察しており、小説の細部に生かされている。

 冒頭、こんな描写がある。―たけチにコクられてまじでビビる。「中川が好きとか思う、六年とかになったら付き合いたい」―。不思議な文体は結末まで一貫されている。

 大勢の前で告白され、恥ずかしさと戸惑いがあるとはいえ、何で今じゃなくて6年になってからなのか理解できない瑞季。「えっと、五年とかは早いかもだから・・・」。そんなはっきりしない男子たけチのキャラクターが、小説の後半に大きく生きてくる。

 新型コロナウイルスによる目に見えない不安、新しい生活様式、全国一斉休校など、子どもたちはこれまで経験したことがなかった環境下で暮らしている。「そんなコロナ時代の今を、子どもたちのかけがえのない生の声を、小説でしかできない方法で表現したかった」。小説の着想には、文体の軽さや難解さを遥かに超える重いテーマが秘められている。

 受賞作には、徳島の直接の地名や名所が登場するわけではない。「大きいばっかの川」「お城のないお城公園」「踊りのお祭はパパや親せきばっかテンション上がる」。大きなモチーフになった金時豆入りお好み焼きも「甘みとしょっぱみが合体してベロがこんがらがる」ほどのありえなさと表現される。

 一見、徳島をけなしているようにも感じるが、読後感は良く、実は徳島をたたえているようでもある。それはなぜか。

 徳島出身の父が作る豆玉焼きの甘辛さが嫌いだった瑞季。豆玉焼きと同じように、お人よしで頼りなく見えるたけチの性格も理解できなかったが、たけチの正義感や優しさといった意外な一面を知りながら、徐々に心を開いていく。そんな結末に向かうからだろう。

 「そう感じてもらえたらうれしいです」。リモート取材のため、電話口で笑う声が聞こえてきた。

 コロナの影響で12日に徳島市の新聞放送会館で行われる授賞式や文学トークも、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を使って開催される。「徳島へ行けないのは残念だけど、最終選考委員の先生やゲスト作家に、感想を聞くのが楽しみ」。受話器の向こうに笑顔が見えるようだった。

 ◇ 

 「第3回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」の受賞者3人に、作品に込めた思いを聞いた。3回に分けて紹介する。