最多の465編の掌編小説が寄せられた「第3回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」(徳島文学協会、徳島新聞社主催)。創作への情熱はコロナ禍にも負けず、徳島の新たな可能性を感じさせる多彩な受賞作がそろった。12日に授賞式の後、徳島市の新聞放送会館で行われた記念文学トークでは、阿波しらさぎ文学賞の蕪木Q平さん、徳島新聞賞のなかむらあゆみさん、徳島文学協会賞の三浦みなみさん、最終選考委員を務めた芥川賞作家の吉村萬壱さんと小山田浩子さん、2020年本屋大賞の凪良ゆうさんらが受賞作について意見を出し合った。司会は徳島文学協会の佐々木義登会長(四国大教授)が務めた。新型コロナウイルスの影響で、県外に住む受賞者や作家はビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」でのリモート参加となった。

阿波しらさぎ文学賞「あまいがきらい!」蕪木Q平さん

子どもの声で意見表現

 あらすじ 新型コロナウイルスの影響で一斉休校になった小学校や家庭を舞台に、子どもたちの今が描かれる。小学5年生の女子瑞季は、突然、同級生のたけチに告白されるが、いつもへらへらしているたけチが好きになれない。昼食にパパが作る豆玉お好み焼きの味のようにはっきりしない態度が気に入らないのだ。だが、そんなたけチの勇気や優しさが少しずつ見えてきて・・・。

蕪木Q平さん

 佐々木 まず全体の感想を。

 吉村 1回目から選考しているがレベルは年々、上がっている。今回から小山田さんが新たに加わってくれたおかげで、審査が立体的になった。受賞者は全員女性だと思ったが、一人は男性だった。

 小山田 地方発の文学賞では特異な賞だと話題になっていた。3回目から選考委員になるのは勇気がいったが、楽しく面白い作品が、想像以上に多かった。意見が違ったところも勇気を持って言い張ったら、聞き入れてもらえた。

 佐々木 ゲストの凪良さんは受賞3作品を読んで、どう感じましたか。

吉村萬壱さん

 凪良 こんなにレベルが高いんだとびっくりした。どれもアプローチが違っていて、幅の広さがとてつもない。伝えたいことが完成している人もいて、プロの作家として肝が冷える思いだった。選外の作品もレベルが高かったに違いない。

 佐々木 大賞の「あまいがきらい!」について、意見をどうぞ。語り口と文体が独特で、初めて読むと戸惑うかもしれない。

強く揺さぶられる世界 吉村さん

 吉村 選考する上で、僕が一番頭に置いているのは、アプローチの仕方と作品の世界。一定の価値観やものの考え方をそれぞれのやり方でぶつけてくる作品が良い。何かほころびがあっても、強く揺さぶられる部分、読み手の心に響くのが評価の基準だ。

佐々木義登さん

 「あまいがきらい!」は、最初の段落で、作品世界にぐっと身構えて入って行くことができる。女の子になりきって子どもの視点で世界を見て書いている。異性の作者には難しいことだ。東日本大震災とコロナという二つの災害が根底にあって、主人公たちは6年生になったかどうかもはっきりしない。そんな状況下で子どもたちが過ごしている。「平和になったら」豆玉焼きを食べに来てもいいと主人公に語らせるところに、なぐられるほどの衝撃を受けた。

 小山田 10代の子どもが書いているのではないかと最初は思った。途中から、子どもが近くにいる人が書いていると分かった。今の子どものしゃべり方、考え方など、書き手と年齢の離れた登場人物は書きにくいが、こんな風に表現するのだと驚かされた。見えているものの視点の違いをうまく書いた。

 凪良 力強い作品。確かに読みづらいけれど、ここまでメーターが振り切った読みにくさには意図がある。子どもの圧倒的なリアルさと力強さ、生命力のようなものが作品全体にある。情景が鮮やかに浮かんできて、光っているような印象がある。たけチがかわいい。ランドセルのシーンにしびれた。

 蕪木 春頃に緊急事態宣言が出るか出ないかで全国的に危機的な状況にある中で、さまざまな報道があった。でも、世の中に出回っていない声があるんじゃないかと思った。それを子どもの声で表現できたら、小説として、物語として、意味が見いだせるんじゃないかと思って書いた。

 舞台設定は2020年だけど、11歳から12歳くらいの女の子が、2010年から10年間くらいという長いスパン、大きな枠組みの中で書けたらいいなと。