7日開かれた徳島県議会9月定例会の文教厚生委員会で、新型コロナウイルスの感染者が立ち寄った店舗の名前を公表する基準が問われた。県健康づくり課の蛯原淑文課長は「公表するかどうかはケースバイケース。保健所が立ち入り調査した上で感染対策状況なども考慮し判断している」と答えた。

 県は感染者に行動歴や立ち寄り先を聞き取り、公衆衛生上必要な情報を公表している。立ち寄り先に不特定多数の人が居合わせ、注意喚起が必要な場合などは、原則許可を得た上で店名を明らかにする。しかし、その基準や決定過程は不透明さが目立つ。

 7月26日に感染が確認された60代男性のケースでは、薬局やホームセンターなど3店の名前を立ち寄り先として公表した。男性は30分間で全店を巡ったといい、それぞれの滞在時間は10分以下だったとみられる。県は「マスクをしていなかった。各店とも感染対策ができていたが、念のため公表する」とした。

 一方、7月末に感染者の男性会社員2人が「はしご」し、5時間にわたって飲食していた徳島市内の飲食店3店については、一切の情報を明らかにしていない。県は店側に店名公表の許可を求めておらず、早々に非公表と判断したとみられる。

 県は飲食店の場合、クラスター(感染者集団)に関連するケースや運営事業者が自ら公表した事例を除き、名前をほぼ公表していない。例外といえるのが、感染した男子大学生とその友人が立ち寄った藍住町のラーメン店だ。

 店名を公表した理由について県は「来店時、店内が混雑していた」と説明する。とはいえ8人で訪れた大学生は2、3人ずつ別々に座り、滞在時間は20分間だった。店主は「回転が早いので客の滞在は短時間だし感染対策も施していた。なぜ公表したのか。飯泉嘉門知事の意向ありきで、言いやすい店にだけ同意を求めているのではないか」と憤る。

 保健所職員に公表を控えるよう何度も依頼したにもかかわらず、職員は電話でのやりとりの中で「同意が得られた」と捉えていた。公表後、支店も含めて売り上げは激減し、深刻な影響を受けたという。

 このラーメン店を巡って知事は「保健所が立ち入り調査し、状況を確認した」と発表していた。しかし保健所は、店主の質問状に対する回答書で店側と調整がつかず「電話で聞き取った」とし、現地を訪れていなかったことが判明した。

 団体職員であるNHK職員を「会社員」と発表したケースや、「感染症対策はしっかりできている」としながら、感染者が勤務する店舗名を明かしたケースもあった。県民の安心安全に直結し、事業者にしてみれば経営に多大な影響を受ける情報をどう取り扱うか。前例がないとはいえ、ずさんさや一貫性のなさが見られる。

 県は店舗の公表基準を盛り込んだ条例案を、県議会9月定例会に追加提案する。ただ、対象はクラスター発生時に限られるとみられる。全ての事例で不平等感のない対応が取れるよう改善できるかどうか、未知数といえる。

 感染者が死亡したケースでも県は、兵庫県在住だった最初の1人を除き「高齢者」という情報しか開示していない。いずれも「遺族の同意を得られていない」というのが理由だ。死亡に至った経緯は今後の教訓や啓発につながるだけに、個人情報に配慮した上での開示を求める声は多い。

 自治体の情報公開に詳しい東北大大学院の河村和徳准教授は「遺族の意向を理由に死者に関する情報を公開しないのは、重要な判断の責任を遺族に押し付けているような印象を受ける。個人情報を守りつつ、知る権利に応える基準を明示した上で、必要な情報は行政が責任を持ちしっかりと開示するべきだ」と指摘した。