県内初のクラスター発生について説明する飯泉知事(右)。市中感染は否定した=8月5日、県庁

 徳島県内で初めてとなる新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)かどうかを判断するため、8月5日に非公開で行われた県の専門家会議。増え続ける感染者数に委員は危機感を強めていた。検討材料が少なく、市中感染とは断定しなかったものの、「市中感染が起こっていてもおかしくないというぐらいの意識を持ち、対策レベルを上げるよう発信した方がいい」との意見でまとまった。

 直後に臨時会見を開いた飯泉嘉門知事は専門家の注意喚起を紹介しつつ、「市中感染ではない」と繰り返した。クラスターが続発し、感染者数が積み上がっても市中感染は否定した。

 市中感染は院内感染の対義語で明確な定義はない。病院外で感染すれば全て市中感染ともいえるが、県民に与えるインパクトは大きい。専門家がこの言葉を用いて危機意識を高めようとしたのに対し、知事の発信は抑え気味だった。

 「知事の言葉からは危機感が伝わらない」「県民に自分ごととして考えてもらうよう、もっと注意喚起するべきではなかったか」。新型コロナに関わる医療関係者らはもどかしさを口にした。

 7月下旬の4連休やお盆前の記者会見で県民へのメッセージを求められた際も、知事は「訪問先の都道府県の知事の発信に注意してほしい」などと慎重な発言に終始した。5月の大型連休前に「県外客はお断りいただく」との強烈なメッセージを発したのとは対照的だった。

 知事は、5月に緊急事態宣言が解除されると、国の方針に合わせて「これからは感染防止と、社会経済活動の引き上げを両立させることが急務だ」と強調するようになった。自粛期間中に停滞していた経済を回復させる必要があるためだ。

 「人が行き交うとなると、感染拡大はやむを得ない」(8月6日の臨時会見)。知事からはこうした発言が増えた。経済を動かせば、どうしても感染者は出る。重症者やクラスターを出さないのが重要だ、という趣旨だ。

 しかし、結果的に県内では四つのクラスターが発生し、感染者数は7月下旬から急増した。知事は8月28日の定例会見で「感染防止と経済の両立は難しいと実感している」と述べた。

 感染者数の増加に伴い、入院患者の受け入れ施設を感染症指定医療機関以外にも広げざるを得なくなった。高齢者が中等症や重症となるケースが相次ぎ、これまでに中四国で最多の9人が亡くなった。

 目を引くのが致死率の高さだ。9月22日時点で全国の致死率が1・9%なのに対し、徳島は6・1%に及ぶ。大都市と比べて医療体制が十分ではない中、現場の負担は増し、県民は不安を募らせている。

 東北大大学院の河村和徳准教授(政治学)は「県民の感覚から遠い県政になってはいないか。知事は不安を解消するために、根拠となる数字を出すなどして自分の言葉で発信しなければいけない」と指摘。県民目線で現状を正確に伝え、理解してもらう必要があると強調する。

 秋冬に懸念されるインフルエンザとの同時流行や感染の再拡大に備え、「第2波」の教訓をどう生かすのか。非常時のリーダーに多くの課題が残されている。

=おわり