「渡船」。海峡を渡り対岸を結ぶ、海の船のことで「とせん」と読む。響きのいい言葉だ。川であれば「わたしぶね」と読み、船も舟の字を使う。用途によって読み方や文字を変える日本語の表現力を感じる単語だ。

 かつて川や海峡に橋がなかったころは、全国に数え切れないほどの渡船があった。徳島県内にも各所にあったが、橋が整備されるに連れ減り続け、今では鳴門市に4カ所、松茂町に1カ所残るだけになった。

【海峡を行く】一面ブルーの波静かな小鳴門海峡を渡る。航海時間は5分ほど。

 その中から小鳴門海峡を渡り、鳴門市撫養町岡崎と対岸の鳴門町土佐泊浦を結ぶ岡崎渡船を訪ねた。岡崎側の乗り場は道路標識に記されており、乗り場まですんなりたどり着けた。

 

 船は昔のフェリーボートをそのまま縮小したかのような「さざなみ」号。桟橋で見ていると、自転車に乗ってきた人がそのまま乗り込み出港を待っている。道路と同じ扱いのため運賃は無料だ。

【日が暮れて】日没後も運航は続く。水面に灯火を反射させながら船がやってくる

 乗員が乗り込みエンジンをかけ、もやい綱を解くとすぐさま出航。5分ほどで海峡を渡り切り、対岸の利用者が乗り込むとすぐさま引き返す。午前6時40分の始発から午後7時50分の最終便までほぼ30分ごとの運航。生活に密着した地域の足であることを実感した。

【シルエット】きらめく海に進む渡船が浮かび上がる
【夕刻】日が空を染める時間帯の渡船は、刻々と変わる空の色とともに絵になる存在
【欠航中】船が小さいだけに海が荒れると欠航せざるを得ない。今年も台風10号接近で欠航した
【接岸】接岸と同時にタラップが架けられ、乗降が済むとすぐ出航する。見事なまでの早わざ
【大にぎわい】1956(昭和31)年に撮影された岡崎渡船・土佐泊港の様子。小鳴門橋も無く、大毛島に渡る唯一のルートだった