「うちで千年以上になります」。住人がさらりと言う。源平合戦、壇ノ浦の戦いがあったのが1185年だから、先祖は平家の落人を迎えた人々ということになる

 三好市東祖谷には、国の重要文化財の木村家と小釆(こうね)家、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている落合集落など、祖谷の様式を伝える古民家が多く残っている。このうちの1軒に上げてもらった

 築造は江戸中期、元禄年間。広間に腰を下ろせば、かやぶき屋根の下、交差する太い桁と梁(はり)が目に入る。深い色合いに、いろりの煙にいぶされた長い歳月が染み込んでいる。障子を開けると、緑の山並みが遠く剣山へと続いていた

 畳半分の大きさのいろりが二つ。「繁盛につながるから半畳とか」。そう教えてくれた住人のことが気になった。「ひょっとして都会から?」「ええ。でももう、こちらの方が長い。そんな人が、この辺には結構います」

 奥祖谷は夫の古里。結婚した昭和50年代、幹線道から荷物を背負って上がった。「それが今やインターネットの時代。便利になりました。暇じゃないかって。いえいえ、草取りだけで大変。田舎の生活は忙しいのです」

 時計を見て驚いた。穏やかな時間は思いの外、たつのが早い。庭にゆったりとイチョウの古木が立っている。「樹齢は」と聞くと、「千年ほど」と返ってきた。