本場での演奏感無量
「鳴門の第九」を通した国際交流は歌い手だけにとどまらない。3月11日、日本、ドイツ、中国、米国の合同合唱団によってドイツ・リューネブルク市のロイファナ大で開かれた「第九」里帰り公演では、現地のオーケストラに徳島交響楽団の団員2人が加わった。
フルートの香川雅代さん(51)‖徳島市‖と、チェロの阿部万寿代さん(50)‖藍住町。公演実行委員会が毎年6月の鳴門の第九演奏会に出演している徳響に参加者を募ったところ、「ドイツのプロと演奏できるのは貴重な経験になる」と手を挙げた。
3回目を迎えたドイツでの里帰り公演で、徳島の演奏家がオケに加わるのは初めて。実現したのは、公演のオケを担当したリューネブルク市立管弦楽団の指揮者トーマス・ドーシュさん(48)の存在が大きい。
ドーシュさんは2015年、「鳴門の第九」で徳響の指揮を務めた。17年、そして第九アジア初演100年記念となる18年の演奏会でもタクトを振ることが決定済みで、徳島の演奏家との交流に積極的だった。
「温和な性格で指導も丁寧。鳴門に続いてドイツでも本当にやりやすかった」。香川さんは曇りのない笑顔で公演を振り返る。
フルート講師や個人の演奏活動の傍ら、徳響の団員として約30年間、「鳴門の第九」に出演してきた。毎回、徳響の編成は90人近くになるが、今回のオケは約半数と小規模で、「音楽の本場のプロ演奏家」と身構える雰囲気でもなかった。
しかし、仲良くなった彼らのスケジュール帳を見て驚いた。当分先まで演奏活動の予定でびっしり埋まっていたからだ。
「ドイツでは小さな町にもプロのオケがあり、しかも演奏の需要がある。暮らしに音楽が溶け込んでいる様子を目の当たりし、改めて音楽のある人生の素晴らしさを実感しました」
一方、阿部さんは特別な感慨を持って公演に臨んだ。1993年から徳響の団員として「鳴門の第九」に参加してきたが、菓子製造販売の本業の忙しさから2004年から10年間ほど徳響を離れていた。15年に「鳴門の第九」に復帰。その指揮者だったドーシュさんとドイツで再会することを心待ちにしていた。
演奏活動の原点も第九にあった。徳島中オーケストラでチェロを始め、徳島市立高に進学。1年生のとき、同級生から「鳴門の第九」の合唱団に参加する話を聞いた。1982年、鳴門市文化会館の落成記念で開かれた第1回の公演だった。
徳島で第九演奏会が始まったことに感銘を受け、「いつか私も演奏したい」との思いを抱くようになった。
「私の人生の節目には、いつも第九があった。ドイツで演奏できた感動を大切にしていきたい」。阿部さんは喜びをかみ締めた。
公演後、ドーシュさんは2人をたたえた。
「言葉は違っても、音楽は世界共通のものなので分かり合うことができる。とても良い出来だったと思う」
2人がドイツで演奏したことで、今度はリューネブルクの演奏家が徳響に加わる計画もある。徳島とドイツのオケのさらなる交流に、夢は大きく広がっていく。