「第九」里帰り公演に駆け付け、笑顔を見せるヒルシュフェルドさん=3月、ドイツ・リューネブルク市

親善事業役割大きく


 鳴門市の日独親善事業で、市ドイツ館の国際交流員が果たす役割は大きい。1995年以来、常時ドイツ人交流員1人を置き、現在までに計8人が2〜5年間在籍。通訳や資料の翻訳をはじめ、外国人訪問者の案内、ドイツ語講座など幅広い業務をこなしてきた。

 そんな中、ドイツ館を離れてからも徳島との懸け橋となっている元交流員がいる。2004年8月から2年間務めたマティアス・ヒルシュフェルドさん(40)。現在、ドイツのハノーバーで暮らし、徳島県と友好提携を結ぶニーダーザクセン州の首相府でアジアとロシアの国際交流を担当する。今年5月下旬に来県した州訪問団にも同行した。

 「もしドイツ館に行かなければ、今の自分はなかった。その巡り合わせに感謝したい」と、充実した鳴門の2年間を振り返る。

 当時の市長は、全日本「第九を歌う会」連合会名誉会長の亀井俊明さん(73)。板東俘虜収容所で「第九」がアジア初演された史実を背景に、亀井さんは市長時代からドイツと積極的に交流してきた。

 姉妹都市のリューネブルク市があるニーダーザクセン州とも関係を深め、2005年にはクリスティアン・ヴルフ州首相(後のドイツ大統領)を鳴門市に迎えた。一方、亀井さんも州首相をドイツに訪ね、その通訳を担当したのがヒルシュフェルドさんだった。

 鳴門市でニーダーザクセン州との交流に関わったことが縁で、帰国後の07年から州職員として働き始めた。

 採用のための推薦状を書いた亀井さんは、思い出深い出来事を語る。「ドイツで州首相と面会する時、こちら側の通訳だったマティアスが、翌年には州首相の通訳になっていた。不思議な感じがすると同時に、うれしい気持ちになりました」

 ヒルシュフェルドさんは04年から鳴門市で働き始める前年の03年3月にも、ドイツ館を訪れている。ライプツィヒ大在学中、ドイツの合唱団「マドリガルコーラス・キール」の団員として、日本ツアーの一環でドイツ館でのコンサートに出演した。

 「一度ドイツ館に足を運んだことが、赴任地に鳴門を選ぶ決め手になったんです」

 幼少時から音楽に親しみ、毎年6月に鳴門市文化会館で開かれる「鳴門の第九」では05年に合唱団のバスで参加、06年には徳島交響楽団に加わってバイオリンを演奏した。

 板東収容所を題材にした06年公開の映画「バルトの楽園」でも、バイオリンを演奏するドイツ兵捕虜のエキストラを務めた。

 「鳴門の人たちの『第九』への熱い思いは素晴らしい。ここまでドイツとの交流を深めた継続の力にも感心させられる」

 今年3月には、鳴門市民らがリューネブルク市で開いた「第九」里帰り公演で合唱団員としてステージに立った。交流員を終えて11年がたった今も、「鳴門との絆を大切にしていきたい」と語る。

 現在、ドイツ館では昨夏着任したリリ・ブシュミンさん(29)が交流員として働く。来年は「第九」アジア初演100年の大きな節目。「仕事は大忙しですが、記念の年に立ち会えることをうれしく思います」

 歴代交流員が積み重ねてきたものを大事にしながら、100周年に向けて準備を進める。