徳島や大阪など1府4県の周辺海域で起きた65歳以上の高齢者による船舶事故が、2011~16年の6年間で約1・6倍に増えたことが、第5管区海上保安本部(神戸市)への取材で分かった。自動車では高齢者の免許返納の動きが広がるが、船舶免許に返納制度はなく対策が遅れている。漁師らの高齢化で事故増加が懸念されており、徳島海上保安部は27日にも高齢操船者向けのリーフレットを各漁協に配布し、注意を呼び掛ける。
5管によると、衝突や座礁などの船舶事故を起こした高齢者数は、11年には46人と全体(226人)の20・4%だったが、16年は73人と全体(211人)の34・6%を占めた。
16年の高齢者の事故原因は、周辺の船舶や岩礁などへの注意が不十分な「見張り不十分」(17人)、船の整備不良(11人)―の順に多かった。死者は3人で、このうち県内では昨年12月、鳴門海峡でプレジャーボートを操縦していた男性=当時(66)=が海に投げ出されて亡くなった。
5管が高齢操船者約100人にアンケートを実施したところ、「体の衰えが事故の危険を招く要因と感じているか」との問いに、半数が「はい」と回答した。「しっかり見張る」「スピードを落とす」「相手方の船を自分から避けて航行する」といった対策を講じているのは2割しかいなかった。
船舶免許は5年に1度更新する必要があるものの、車の運転免許のような返納制度はない。県漁連によると、県内の漁業者は68~70歳が中心。徳島海保は「高齢化で操舵(そうだ)の動作が遅くなったり、視力の低下で見張りが不十分になったりと、危険な航行につながる可能性が高まる」と指摘する。県漁連は安全講習の実施も検討しているが、希望者がなかなか集まらないのが現状だ。
牟岐町漁協の田中幸寿組合長(73)は「海は陸と違って交通量が少なく、年をとっても現役で仕事を続けやすい。ルールを守るしかない」。鳴門市の北灘漁協の松下有宏組合長(59)は「見張りが不十分になることもあるので、高齢組合員が1人で船に乗らないようにしたい」と話している。