藍住町を東西に貫く県道松茂吉野線を挟む矢上地区。人口が増加する町の中心部に位置し、道路沿いには多種多様な店が連なる。元サッカー選手が経営する接骨院や、店名を改めて再出発を図るスーパーなど新たな挑戦への動きも見られる。四季を彩るバラ園のほか、水耕栽培の農業もあり、地区に潤いを与えている。

 

「カネイファーム」新しい農業の形追求

 カネイファームは、土は使わない水耕栽培で野菜を生産している。農業用ハウスでフリルアイスレタスやクラウドレタスなどを育てる。2005年に矢野正英社長(43)が創業し、13年に株式会社化した。

水耕栽培に取り組む矢野正英社長(左端)と望美専務(右端)らスタッフ=藍住町矢上のカネイファーム

 自前の野菜を活用したレストラン「アクリエ」を町内で経営するほか、障害者が働きながら技能を身に付ける就労継続支援A型事業所を鳴門市に設立するなど事業を拡大している。

 矢野社長の実家は、ナシ農家。農業に多い「家族経営」から脱却して法人化した理由について「学生や親御さんに安心して入社してもらいたかったから」と言う。

 推進役となったのが、妻で専務の望美さん(39)だ。看護師をしていた経験から業務のマニュアル化が徹底された病院を参考にした。指示系統を明確にし、社長の指示が行き渡るように改善。藍住町と鳴門、阿波両市の計3カ所にある農業用ハウスそれぞれにタブレットが設置され、SNSで業務の状況を共有している。

 現在は社員6人、パート12人、外国人実習生の2人を抱える規模となった。「農業は国の軸となる産業。携わる人が自信を持って働けるような経営を続けたい」と矢野社長。住宅や店舗の立地が相次ぐ藍住町で農業を守り次代につなぐ。

「板野鮮魚」受け継ぐ調理の技術

 海に接しない藍住町で、魚を前面に押し出す小売店「板野鮮魚」。大手スーパーが立ち並ぶ激戦区にあって異彩を放っている。板野嘉宣代表(44)が市場で直接目利きした多種多様な魚介がずらりと並ぶ。

 合言葉は「粋に活きに売ります」。店頭に並べている以外にも、客の注文に応じてスタッフが魚をさばく。「刺し身にしてもらえるで」「家で煮付けにしたいんやけど」。直接やりとりできるよう、調理場の窓は開いたままだ。

商品について説明する板野代表=藍住町矢上の板野鮮魚

 前身は「ママの店」。板野代表の祖父が開業し、最大時には県内外に8店舗を構えていたが、大型ショッピングセンターの進出などに伴い、相次いで閉店を余儀なくされた。

 2017年には、藍住の1店舗のみとなり、他の小売店と差別化を図るため、目を付けたのが魚を中心にした販売だった。祖父はかつて吉野川市で「板野鮮魚」を営み、調理する技術が代々受け継がれていた。17年末、「ママの店」から店名を改め、再スタートを切った。

 日本人の「魚離れ」が指摘される中、板野代表は「おいしいものを食べやすく提供すれば、お客さんは喜んでくれる」と言い切る。魚介のほか、自家製の餅や肉、野菜、菓子類などを販売しており、「多くの人に必要とされ、末永く残る店でありたい」と力を込めた。

 休みは1月1日のみ。営業時間は午前9時半~午後9時。

「Dance&Fitness Passion」情熱持って生徒指導

 男性と女性が音楽に合わせ、華麗にステップを踏む。共にプロダンサーの堂谷祐介さん(32)と悦子さん(32)夫妻が営む「Dance&Fitness Passion」は、3年前に徳島市内から移転し、社交ダンスの楽しさを伝えている。

 祐介さんは神奈川県出身、悦子さんは徳島市出身。2人は進学した岡山大の競技ダンス部に入部し、ペアで一体となって動く達成感と奥深さにのめり込んだ。15年に全国大会で優勝し、19年に数少ない日本ボールルームダンス連盟(JBDF)のプロラテンアメリカンA級に昇格した。

プロダンサーとして生徒の指導に当たる堂谷祐介さん(右)と悦子さん夫妻=藍住町矢上のPassion

 現在も週1回、大阪に出向いて元世界チャンピオンから指導を受けており、2人は「自分たちも日々ダンスをアップデートしていて最先端の技術を伝えられる。徳島の社交ダンスを盛り上げるため、情熱を持って指導に当たっている」と意欲的だ。

 教室は、個別に指導する個人レッスンと、初級や中級といったクラスに応じた団体レッスンを用意。現在は50代~70代の約50人が学ぶ。新型コロナウイルスの感染拡大後は、練習を敬遠する生徒もいるため、オンラインレッスンも行っている。踊る際の姿勢のコツなど100本以上の動画を制作し、一部は無料で公開している。

 問い合わせはPassion<電088(635)3195>。

「ボール接骨院」選手から転身 恩返し

 「ボール接骨院」。一風変わった名前と、サッカーボールが描かれた大きな看板が特徴だ。J2徳島ヴォルティスの前身・大塚FCでプレーした元サッカー選手の平岩裕治さん(42)が営む。

 埼玉県出身。小学生の頃にサッカーを始め、強豪の浦和南高、立正大を経て2001年に大塚FCに入団した。FWとして3年間活躍した後、スタッフに転身し、徳島ヴォルティスとなってからも、イベント企画や広報を担当。ボールのかぶり物をまとった「ボールくん」としてハーフタイムを盛り上げ、古参ファンには知られた存在だ。

トレーニング用の器具を解説する元大塚FCの平岩さん=藍住町矢上のボール接骨院

 やりがいを感じていたものの、「もっと直接感謝される仕事をしたい」と退職。柔道整復師の資格取得を目指して12年に香川県の専門学校に入学し、15年に開業した。徳島県を選んだのは、「社会人として成長させてくれた地に、恩返しをしたかった」。

 アスリートとしての経験を生かそうと、施術に加え、トレーニングと栄養管理に力を入れ、ダイエットや運動不足解消を目的とした人も訪れる。

 古巣のヴォルティスは今季快進撃を続けている。なかなかスタジアムに行けず、試合の結果は動画配信サイトでチェックしている。「ぜひ昇格をつかんでほしい。J1に上がれば徳島の誇りとなる」とエールを送った。