マグニチュード(M)9クラスの南海トラフ巨大地震が発生した場合、津波で流入した海水が陸地にとどまる「長期湛水(たんすい)」により、徳島市の沖洲地区はほぼ全域、川内地区は約半分のエリアで、地震発生から72時間後も浸水被害が続く可能性があることが分かった。徳島大大学院の馬場俊孝教授(津波防災学)らの研究チームが被害想定をまとめた。長期間に及ぶ浸水で、ライフラインなどの早期復旧は困難となる恐れがある。

 想定によると、沖洲地区は地殻変動で全域が約80センチ沈降。地震発生約50分後に最大約5メートルの津波が南東側から流れ込む。全ての排水施設が正常に稼働しても、潮位より地盤が低くなった南東側から海水が流入し続け、72時間後もほぼ全域に海水が残る。場所によっては1~2メートルの深さとなる。

 川内地区は70~80センチ地盤沈下する。地震発生から約1時間後、津波は今切川から流れ込み、東部を中心に浸水が始まる。海水は海抜が比較的低い国道11号東側の中央部付近に集まり、全ての排水施設が正常に稼働しても、72時間後に面積の半分ほどで最大浸水深約1メートルの被害が残る。

 両地区は海抜0~3メートルほどの地域が多く、津波や長期湛水被害のリスクが高いとみられることから調査を行った。被害想定は同市住吉地区でも行う予定。

 2011年の東日本大震災では、岩手、宮城、福島3県の沿岸部に計1億1200万立方メートルもの海水が流入。国が全国から集めた延べ1700台以上の排水ポンプ車が配備された。しかし、地震から1カ月が過ぎても浸水の高さが50センチ以上の地域が多くあり、復旧復興に時間がかかった。

 1946年の昭和南海地震では、海抜の低い高知市で大規模な地盤沈下が発生。被災後2カ月以上がたった後も農地などに浸水が続いたという記録が残る。

 馬場教授は「今回の想定では地震時に発生する液状化は考慮しておらず、実際にはさらに大きな被害が出る可能性もある。長期湛水が懸念される地域では避難経路の確認のほか、備蓄や通信手段の確保にも努めてほしい」と話している。


  ≪想定方法≫

 県、徳島市が作成した地形データや現地での測量調査などを基に、想定される津波の流量、加速度、海面の水位変化などを計算。地表や排水路を伝う津波の流れは、同市の民間会社が作った氾濫解析ソフトを使用した。常に満潮の状態で地区内の全ての排水施設が正常に稼働した場合と、主要な排水施設が稼働しなかった2例を想定し、津波の流入から排水までの流れをシミュレーションした。


 ◆長期湛水、地殻変動で発生

 長期湛水は地震による地殻変動によって引き起こされる。

 地球の表面はプレート(岩板)に覆われ、四国のある大陸プレートには海洋プレートが1年間に数センチ程度潜り込んでいる。通常は海底部分は沈み、海岸付近は隆起する状態だが、地震が発生すると大陸プレート内部で蓄積されていたひずみが解放され、海底が隆起し、海岸付近が広範囲に沈降する。

 海抜の低い沿岸部や堤防に囲まれた低地などでは流れ込んだ海水が排出できず、長期間にわたって浸水被害に見舞われる。一度土地が沈降すると、台風による洪水や高潮などの2次被害を受けやすくなる。

 避難の遅れや救助、捜索の妨げとなるほか物資輸送にも多大な影響が出る。排水ポンプ車などで排水が完了した後も、農地は表土流出や塩水被害、住宅はかびや腐食被害が深刻になる。