徳島県阿南市長生町宮内の八桙(やほこ)神社が所蔵する平安時代の書物「紙本(しほん)墨書(ぼくしょ)二品家(にほんけ)政所(まんどころ)下文附(くだしぶみつけたり)紺紙(こんし)金泥(きんでい)法華経(ほけきょう)八巻」(国指定重要文化財)の金泥文字に真ちゅうが含まれていることが、修繕に伴う科学調査で判明した。真ちゅうが国内で普及したのは江戸時代以降というのが定説で、法華経も金粉を用いて書かれたとされてきた。平安時代の真ちゅうの使用が明らかになったのは国内3例目で、同時代の使用を裏付ける貴重な資料になりそうだ。
市によると、国宝などの修繕を手掛ける奈良県の専門会社「文化財保存」が2015年から約2年かけて行った修繕で判明。同社の依頼を受けて奈良国立博物館が全8巻の金泥部分を蛍光エックス線分析したところ、1、4、7巻の表紙の絵や文字から真ちゅうの成分である銅と亜鉛が検出された。残り5巻からも金に加えて銅が見つかった。
同博物館などによると、通説では江戸時代ごろに欧州から亜鉛の精錬技術がもたらされ、真ちゅうの利用が進んだとされていた。
14年には奈良大が、所蔵する平安時代後期の装飾経「紺紙金字一切経」を分析し、金泥文字から真ちゅう成分が検出された。平安時代の使用が確認されたのは初めてで、定説を覆す発見とされた。同じ時期に、平安時代から鎌倉時代中期に書かれたとされる紺紙金泥経からも真ちゅう成分が検出された。
今回の分析を担当した同博物館の鳥越俊行・保存修理指導室長は「奈良大の発見を証明したことになる。金と真ちゅうを混ぜた非常に珍しい使用例も見つかり、当時の真ちゅうの使い方などを研究していく上でとても貴重な資料になる」と解説する。
八桙神社の松田道雄代表総代(76)は「貴重性が増した地元の宝をしっかり守っていきたい」と話している。
状況解明に近づく
奈良大の西山要一名誉教授(保存科学)の話 おそらく西アジアから輸入され、金と同じような価値で使われたのだろう。平安時代の使用例が一つ増えたことで、当時の使用状況の核心に、より近づいたと言える。
紙本墨書二品家政所下文附紺紙金泥法華経八巻 長寛元(1163)年に貴族の執務所から八桙神社に奉納され、紺の和紙に金泥で法華経がしたためられている。奉納品を通知した下文とともに1910年、国指定重文になった。