吉野川市南西部に位置する美郷地区。国の天然記念物に指定されている「美郷のホタル」に代表されるように、自然豊かで四季折々の姿を楽しめる。川田川沿いを歩くと、人工的な音はほとんど聞こえず、吹く風が爽やかで、鳥のさえずりが心地よい。地域色あふれる農家民宿や菓子工房もある。のどかな風景と住民の温かいもてなしが、癒やしを与えてくれる。

山腹に彩り新名所へ モモの植樹に励む川村さん夫妻

 美郷郵便局近くから川田川の対岸を眺めた。目に入るのが、若木が並んだ段々畑。地域を花で彩ろうと、川村勝一さん(78)房子さん(79)夫妻=吉野川市美郷大神=が2年前から整備に励んでいる。

 川村さんはユズやスダチなどの果樹栽培をしている。後継者がいないため、徐々に規模を縮小。果樹を伐採し、ハナモモを植え始めた。以前から畑の周囲に数本あり、開花時期が長いため多くの人に楽しんでもらえると考えた。

 畑で自然に芽吹いたハナモモを苗にして植えている。2年間で100本ほどに上り、幅は400メートルになった。シカの侵入防止ネットを設置したほか、傷つかないよう幹を保護し、肥料をこまめに与えるなど手間を惜しまない。

 畑の一角では、妻の房子さんがアジサイやツバキ、ロウバイなど数十種類を育てる。美郷ほたる館で生けたり、友人らに分けたりして地域を華やかにするのに一役買っている。

 最初に植えたハナモモの木は、川村さんの背丈を大きく超えた。2人は「この辺りを赤や白の花で埋めたい」と新たな名所づくりに汗を流している。

ハナモモなどを植えている川村勝一さん(左)・房子さん夫妻=美郷大神

農家民宿2軒 料理と絶景堪能

 美郷田平にある2軒の農家民宿「木の夢ととり」と「きのこの里」は、2008年に徳島県の「とくしま農林漁家民宿」に同時認定された第1号と第2号。地元で採れる山菜や自家栽培の野菜を使った料理、絶景を堪能でき、県外客を中心に根強い人気がある。

 きのこの里は、高開の石積みを遠くに望め、肉や乳製品などを使わない「美郷流マクロビオティック料理」が売り。「独自色を出さなければ」と、川村里子さん(66)が始めた。玄米を使ったタケノコご飯、レンコンハンバーグ、干しシイタケでだしを取ったそば米汁など、時間をかけて素材の味を生かす。客との交流もやりがいで「元気をもらえる」と語る。

 きのこの里から10分ほど登った場所にあるのが、木の夢ととり。楮山悦子さん(71)が中心となって営み、タケノコやイタドリなど旬の食材を使った料理でもてなす。部屋からは緑の山々が重なる景色が見える。時間を忘れてもらおうと部屋にテレビはなく、家族連れからは「話す時間が増えた」と好評だ。

 2軒は忙しいときに調理などで助け合ってきた。ともに1泊2食付きで6500円。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため当面は休業している。

「きのこの里」で提供されている料理=美郷田平

丸餅と和菓子 素朴な味わい好評

 5月初旬の朝、吉野川市美郷宮倉の「ほのぼの工房」に湯気が立ち上っていた。楮山信子さん(66)が、地元で古くから親しまれてきたあんこ入りの丸餅を作っていた。
 楮山さんは子育てが一段落したのを機に、2007年に工房を開いた。丸餅を「田舎だんご」(1個90円)として売り出し、基本の白に、ヨモギ入りの緑、トウモロコシを混ぜ込んで蒸して色が変わったピンクの3種類を作っている。

 美郷物産館のほか、徳島市で開かれるマルシェに出品している。県外に住む美郷出身者からも「懐かしい味」と喜ばれ、注文があるという。

 イベントに出向く機会も多く、「客との会話から改善のヒントが得られる。人との触れ合いが楽しい」と話す。

 「ほのぼの工房」の近くには、南修児さん(64)が8年前に始めた「菓子工房・和(なごみ)」がある。徳島市の和菓子店などで働いていた南さんが、のんびりと生活したいと妻幸さん(64)の出身地・美郷へ移住した。

 自前のそば粉を使った焼き菓子「そばの花」(4個入り380円)など季節を感じられる菓子を作り、美郷物産館に出している。

 物産館は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため5月末まで休館している。

昔ながらの丸餅を作る楮山さん=美郷宮倉のほのぼの工房