復刻された新居格の著書「杉並区長日記」

復刻された新居格の著書「杉並区長日記」

 鳴門市出身の文筆家で、東京都杉並区の初代公選区長を務めた新居格(いたる)(1888~1951年)の著書「区長日記」が復刻された。戦後の混乱期に、民主的なまちづくりを目指して区政にまい進した新居の信念や思いがつづられている。2018年は生誕130周年の節目で、識者は「住民本位の政治を実践した地方自治の先駆者を再評価するきっかけになればうれしい」と期待している。

 復刻版は「杉並区長日記」のタイトルで、B6判、272ページ。1955年に学芸通信社から出版された原版(B6判、270ページ)を基に、区長在任中の47年4月から翌年4月に書いた日記や退任後の覚書などをまとめた。

 新居は日記で、全体より個人の尊厳を大切にする自身の政治理念を強調。戦後初の杉並区長選では、図書館や博物館の建設、街路樹の整備といった文化的な施策を訴えて当選したことを振り返っている。

 小学校の建設工事で口利きを求めてきた業者を追い返したり、酒やうどんなど一切の供応を断ったりした逸話を紹介。公費の使途や議員定数削減などを巡り、職員や区議と衝突を繰り返した様子も記されている。

 復刻したのは、編集プロダクション虹霓(こうげい)社代表の古屋淳二さん(45)=静岡県富士宮市。神山町の地域おこし協力隊員を務めていた昨年秋、偶然読んだ評伝で区長日記を知り、新居の政治姿勢に心を打たれた。1年かけて原文をデジタル化し、一部を読みやすい表現に直した。

 古屋さんは「新居の思想は現代の地域づくりにも通じる。多くの人に読んでほしい」と言う。

 復刻版に新居の小伝を寄せた小松隆二慶応大名誉教授(公益学)は「新憲法が制定されたばかりの時代に、住民のことを一番に考えた珍しい首長だった。もっと評価されてもいい」と話している。

 千部製作。税別1600円で、県内の書店で注文できる。

 <新居格> 作家、評論家。板野郡斎田村(現鳴門市撫養町)生まれ。社会活動家・賀川豊彦(1888~1960年)のいとこ。旧制徳島中、東京帝大卒。「左傾」「モボ」「モガ」などの流行語を生んだほか、パール・バックの「大地」を翻訳するなど幅広く活躍。アナキズムの立場で評論活動し、協同組合運動に力を注いだ。日本ペンクラブ幹事や日本ユネスコ協会理事なども務めた。杉並区長は、体調を崩したため1年で辞任した。脳出血のため63歳で死去。