出版された「三木武夫秘書回顧録」を手にする岩野さん=東京都内

 今年11月に没後30年を迎える三木武夫元首相の秘書を長年務めた岩野美代治(みよじ)さん(83)=徳島県阿波市土成町出身、神奈川県鎌倉市在住=の証言をまとめた「三木武夫秘書回顧録 三角大福中時代を語る」(四六判、502ページ)が出版された。間近で接してきたからこその事柄がちりばめられ、ただ1人の県出身首相経験者の素顔を知る一冊となっている。

 同郷の三木氏への憧れから出身校の明治大に進んだ岩野さんは、入学した1953年から三木事務所に出入りし、三木氏が亡くなった後も長女高橋紀世子元参院議員の政策秘書を務めるなど60年以上にわたり、三木氏と三木家に関わってきた。

 74年の参院選徳島地方区での「三角代理戦争」「阿波戦争」と呼ばれた選挙戦に言及。歴史に残る激戦に至った理由は、三木氏直系の現職を差し置き、田中角栄内閣で官房副長官だった後藤田正晴氏が自民党公認を得たためではなく、田中、後藤田両氏から事前にあいさつがなかったことに対し「同じ内閣にいて一言もない。俺はそれを許さん」と三木氏が立腹したためだとの見方を披露した。

 平和主義を貫いた三木氏については「(佐藤栄作内閣で)三木が外務大臣になり非核三原則、武器輸出三原則が実現した。三木でなければ、おそらくあそこまで踏み込めなかったと私は思う。三木は軍縮、世界平和に対しては積極的でしたから」と述懐した。

 80年の派閥総会での三木派解散、河本派結成を、河本敏夫氏の周到な根回しによる「クーデターだった」と明らかにしたほか、「クリーン三木」と称されながらも領収書を残さない資金が存在した実態など、数多くの舞台裏を証言している。

 岩野さんは「1年生議員時代から戦争のない平和な世界の構築を掲げて活動してきた三木のことを深く知ってもらう一冊になれば」と話している。

 回顧録は、明治大政経学部の竹内桂助教が約5年半、22回にわたるインタビューをまとめ、吉田書店(東京)から出版された。4320円。