教育に新聞を活用する方法を考える第25回NIE全国大会(日本新聞協会主催)が11月22日、東京都内で開かれた。大会スローガンは「ともに生きる 新聞でつながる」。コロナ禍で初のオンライン開催となり、作家の真山仁さんが新聞の意義について講演。さらに、子どもたちが多様な価値観を知り、自ら課題を見つけ、解決する能力を身に付けるための一助として、教育現場に新聞をどう生かせるかを議論した。配信された講演、シンポジウム、実践発表を全国の教育者らが視聴した。

社会の声をつむぐ小説 伝える新聞 作家・真山仁さん 記念講演

「疑い」「考える」ために

NIE全国大会と日本NIE学会の共同シンポジウムで、発言する作家の真山仁さん

 以前、関西の進学校で授業をしたとき、生徒にメディアはいらないと言われた。役所の広報がいるから、それでいいと。広報がニュースとして一番正しいという発想を偏差値の高い若者が持っていたことに驚いた。

 大学生との勉強会でも同じ衝撃を受けた。ほとんどの人が新聞を読んでいない。新聞は偏っているからだと言う。ニュースは会員制交流サイト(SNS)でシェアした人のものを読んでいて、SNSは正しいことを言っていると言う。主観、客観すらなく、自分が信じたいものだけを正しいと思っている学生が増えている。彼らに、だまされたと思ってもいいから新聞を読めと言った。

 新聞は、ちゃんと取材をして、できるだけ事実に基づいて記事を作っている。一方的なことは書かず、反対側の意見も書いている。見出しの大きさや記事の順番を見れば、どの記事が大事だか分かる。新聞を読むと、多くの若者は世の中が全然知らないところで動いていることに初めて気づく。自分は知らなければならないことを知ろうという努力をしていないことに気づくはずだ。

 真実は小説で語るという言葉がある。小説はどこまでも虚構の世界だが、私はできるだけ事実に寄り添うように書く。そうすると、本を読んでいて手を止めたときに、これって今起きていることにすごく近いんじゃないかということに読者は気づく。

 新聞もそうだが、文字の良さは止められる、反すうできる、考えられるといったところにある。特に小説は想像力を喚起する。物語と現実を行ったり来たりすることによって、今、自分が置かれている社会や自分たちの問題点が分かるようになる。

 新聞記事やノンフィクションは裏を取らないといけないが、小説は想像力を駆使して書くことで結果的に真実に届くことがある。取材相手に感情移入し、その人になりきるような中で答えを出すからだ。いろんな背景を考えながら、最後は自分で可能性を探すことができる。

 それでは小説は新聞よりすごいのかというと、そうではない。想像力のベースにあるのは新聞記事だからだ。真実に届くようになるまでの積み重ねは、新聞がずっと書いてきた歴史的事実の中にしか出てこない。そのことを若い人に言うと、ようやく信用してもらえるようになる。新聞って読まなきゃいけないと。

 新聞を読んでほしいのは、知らないことを知るためであり、もっともっと疑って考えられるようになるためだ。そういう意味で新聞が持つ力はすごい。

 ただし、使う側にリテラシー(読み解く力)がいる。それを培うために必要なのは小説と思う。小説の刺激を受けて、自分の中で問題意識を持つことが大切だ。問題意識を持つことから書くことと読むことが始まる。

 私たちが暮らす社会や未来のヒントは新聞にある。読んでいて、これって本当にそうなのかなあ、どういうことなのかなあと疑いの気持ちを持ってもらえるといい。新聞社側も教育側も、そういう想像を喚起するために何が必要かということが、これからの新聞を使った教育の中で一番大事なことになるんじゃないかと思う。 

 まやま・じん 1962年大阪府生まれ。作家。新聞記者、フリーライターを経て、2004年に企業買収を描いた「ハゲタカ」でデビュー、ベストセラーに。社会問題を問う小説を多数手掛け、著書に「黙示」「売国」「神域」など。