県内屈指の温州ミカンの産地として知られる勝浦町坂本地区。北は轆轤(ろくろう)山(972メートル)、南は鹿背(かせ)山(501メートル)といった山々に囲まれた集落に、住民約400人が暮らす。過疎高齢化が進む中、廃校舎を活用した農村体験宿泊施設「ふれあいの里さかもと」を中心に、にぎわいづくりへの取り組みも盛んだ。田舎の原風景が残る素朴な雰囲気と、住民の優しさに包まれている。

校舎活用し宿泊施設に「ふれあいの里さかもと」

 どこか懐かしさを感じさせる校舎と運動場。室内に入ると、教室の表札などが今なお残る。旧坂本小学校の校舎を活用した農村体験宿泊施設「ふれあいの里さかもと」。住民の冠婚葬祭や寄り合いなどに利用されているほか、町内にある四国霊場20番札所・鶴林寺への遍路客に親しまれる。

 旧坂本小が、横瀬小と統合したのは1999年。「地域の核となる小学校がなくなれば、集落の衰退が進むのではないか」。危機感を持った住民は、校舎の利活用を目指して「坂本グリーンツーリズム運営委員会」を発足させた。構想を練り、2002年に宿泊施設を開業した。

 初年度は、見込み(1800人)の5倍近い約8500人が利用し、05年度には過去最高の約1万6千人が訪れた。近年は団体客数の減少などで右肩下がりとなっており、19年度は約8200人だった。

 4人用3室、7人用2室、10人用1室の計6室の宿泊部屋などを備える。新型コロナウイルスの影響で4月から約3カ月間、休業を余儀なくされたものの、7月10日から再開した。

 地元住民約30人が働く雇用の場にもなっており、運営委員会の上平士郎委員長(76)は「当初は有志で始まった活動だが、おかげさまで遍路客も定着し、多くのつながりもできた。コロナ収束後を見据えて今は頑張るしかない」。生まれ変わった学びやからは、住民と宿泊客の笑い声が響いている。

校舎を活用した「ふれあいの里さかもと」の運営を支えるスタッフ=坂本

鉄道グッズずらり、カフェ「風の駅さかもと」

 坂本地区を一望できる場所に立つのが、カフェ「風の駅さかもと」。納屋を改修した店内にはつり革や汽車の改札切符が飾られ、駅のホームをほうふつとさせる。鉄道好きの店主・鴻本浩さん(67)=坂本=が、毎週土、日曜日のみ営業している。

 坂本で生まれ育ち、若い頃から何か地元に根ざしたことができないか考えていた。人と関わるのが好きで、憩いの場としてカフェの開業を決意し、55歳の時に勤めていた農協を退職。調理師学校に通い、2016年2月に店を構えた。

 「駅を見ると、どこでも行ける気がしてロマンを感じる」と言う。店内にはリサイクル店や知人から集めた鉄道模型がずらりと並び、2階には列車の運転席があり、車内をイメージした造りにしている。

 四国大と連携した書道展や、近くの鹿背山を「お雛山」と称する命名式典などの催しも開いてきた。今後は自然に囲まれた立地を生かし、町内で見つかった県内初の桜の新種「勝浦雛桜」などを庭に植え、花々が楽しめる場所にする構想もある。

 「人生は一度きりだから、常に何でも飛び込んでみる気持ちでいます」と意欲満々。アイデアは尽きず、これからも走り続ける。

 営業時間は午前10時~午後5時。問い合わせは鴻本さん<電080(2999)0999>。

鉄道関係のグッズが並ぶ「風の駅さかもと」を経営する鴻本さん=坂本

職人歴60年超、今も現役 畳店を営む神田さん

 かつては「銀座通り」と呼ばれたほど、買い物客でにぎわったそうだ。今は面影もなく、ひっそりとした雰囲気が漂う。空き店舗が目立つ中、大正時代末期に創業した畳店がある。

 切り盛りするのは、神田爽さん(83)=坂本。祖母の姉夫妻が店を開き、後を継いだ。今年で61年目となる。

 繁盛していた1960年代ごろは、1軒の新築に当たり30~40枚の注文が入った。これまで手縫いだったものの、機械を導入して製作時間を大幅に短縮。大阪や京都など県外からの発注もあり、寝る間も惜しんで没頭した。

 しかし、平成に入って生活様式が変わり、和室が減少。畳の需要が激減し、多くの同業者が廃業に追い込まれた。

 それでも、「やりかけた以上は続けていこうと思った」。価格や質など客の要望にきめ細かく応える一方、古い畳の回収処分を引き受けて生き残りを図った。昔ながらの付き合いも支えとなり、今でも町内を中心に注文がある。

 年を重ね、体調が優れない日もあるという。「県外に住む息子から一緒に暮らそうと言われるが、住み慣れた坂本がいい。これからも健康に気を付けながら、ほそぼそとでも作っていきたい」。毎日1時間のウオーキングと3食欠かさず取ることを心掛け、畳と向き合っている。

畳を作り続ける神田さん=坂本

にぎわい創出目指す、坂本八幡神社

 毎年10月の2日間、勝浦山総鎮守坂本八幡神社周辺が、幻想的な明かりに照らされる。2014年に住民有志がイベント「あかりの里」を始め、秋の風物詩として定着しつつある。

 加藤大典禰宜(33)によると、本殿は1858(安政5)年に建立された。古くから地域住民に慕われ、近年は神社を舞台にしたイベントが活発に行われている。

 あかりの里は、昔ながらの秋祭りの風景を復活させようと企画した。地元の小学生や農村体験宿泊施設「ふれあいの里さかもと」の利用者らがあんどんを制作。当日は境内に続く約300段の石段などに約600個が並び、地区伝統の「坂本神楽」を女性が継承する「坂本おんな神楽」による演奏もある。

 このほか、「川を渡らず七つの鳥居をくぐると中風にならない」という言い伝えを踏まえ、神社内に七つの鳥居がある特徴を生かし、住民が中風よけの行事「七社七鳥居参り」を毎年秋分の日に開いている。珍しさもあって町内外から多くの人が訪れる。今年は新型コロナウイルスの影響で、「あかりの里」「七社七鳥居参り」とも中止される。

 全国的な御朱印ブームを受け、新たな御朱印も作るなど多くの人が立ち寄る仕掛けに知恵を絞る。加藤禰宜は「誰にとっても、身近な存在と思える神社を目指したい」と話している。

地区の祭りやイベントが開かれている坂本八幡神社と加藤禰宜=坂本