美波町にある四国霊場23番札所・薬王寺の門前町は、大正期に桜が植えられたことに由来し、「桜町通り」と呼ばれる。かつて遍路宿や飲食店が立ち並んだ商店街は、過疎化や郊外店の進出などで次第に衰退。近年は町が再生計画に取り組み、空き家を活用したカフェや宿泊施設などが次々と開業している。歴史と新たな息吹が溶け合う町並みを歩いた。

放課後の子ども集う「倉本製菓」

 商店街の入り口にほど近い倉本製菓は、1928年創業で92年の歴史がある。正月に売り出される「やくよけ飴」は、昔から初詣客に親しまれている。縦25センチ横15センチの板状で、割って食べると、1年間健康に過ごせるといわれている。

 平日の夕方や休日の昼下がりには、近くの日和佐小学校の児童らがふらっと立ち寄る。ずらりと並ぶ駄菓子を選びながら、店番をする倉本美絵さん(47)とのおしゃべりを楽しむ。学校であった出来事や好きなアイドルなど、倉本さんの優しい相づちに子どもたちの口も滑らかになり、2~3時間滞在することもよくあるという。

 週2回通う枡井彩佳さん(10)=同小5年=は「時間があるときは、美絵さんと話したくなってここに来る。第二の家やもん」とうれしそうに言う。

 倉本さんは福岡県宗像市出身。社長の聖也さん(52)と互いに東京で働いていた時に出会い、結婚を機に家業を継ぐことになった聖也さんと共に美波町へ。子育てしながら手伝い、約4年前からは先代夫婦と世代交代し、店を守る。

 「『楽しかった』と子どもたちがすっきりした顔で帰るのを見ると、私もうれしいし元気をもらえる。これからも子どもが集う居心地のいい場所であり続けたいですね」。各地で少子化が進み、駄菓子店が減る中、昔懐かしい空間が残されている。

子どもたちと談笑する倉本さん(右端)=美波町奥河内

楽しみながら活性化 住民グループ「発心の会」

 「人口が減り、沈滞していく町をさみしく思っていた。みんながわいわいと楽しめる場をつくって盛り上げたいと考えた」。門前町の活性化に取り組む住民グループ「発心の会」が設立されたのは2015年。江本友昭会長(65)=美波町奥河内、自営業=は、立ち上げた理由をこう話す。

 メンバーは、自営業者や地域おこし協力隊員ら30代~60代までの男女10人ほど。新年の無病息災を祈願する薬王寺の初会式や、毎春恒例の日和佐さくらまつりなどのイベント時に合わせて、約30店舗が手工芸品などを販売する「手作り物の市」を開く。安心して見て回れるようにと、開催時には商店街を歩行者天国にしており、出店者との交流が楽しめるのが魅力だ。

 以前から「薬王寺と大浜海岸という町内の二大観光地を結ぶ道なのに、人が入ってこない」という課題があった商店街。弘法大師空海がつえをついた地面から湧き出る水を立体的に見せる「だまし絵」を町に提案して実現したほか、移住者と空き店舗の所有者を仲介し、カフェや宿泊施設3店舗の開業につなげた。

 江本会長は「交流人口を増やすために、来た人が楽しく町を回れるようにしたい」と意気込む。訪れた人が会話や飲食を楽しめるようにベンチを置いたり、商店街入り口そばの現金自動預払機(ATM)コーナーをギャラリー兼観光案内所に改装したりする計画を進めている。

商店街の未来について議論する「発心の会」のメンバー=美波町奥河内

客ら協力し多彩な企画 雑貨店「よろずや弁財天」

 9月1日から、「いらんもの市」という企画が開かれている。町民が持ち寄った「いらん(要らない)物」を展示即売。舞台となっているのは、喫茶スペースを併設した雑貨店「よろずや弁財天」だ。

 母が美波町出身で札幌市から移住した中山亜美さん(48)が、昨年12月にオープンさせた。喫茶スペースでは、コーヒー(500円)と昆布茶(300円)が提供され、小上がりでは住民らが手掛けた雑貨などが並べられている。

 地域の人に多く足を運んでもらおうと、積極的に展示会を催す。7月には、札幌に住む知人3人と県内の作家1人が手掛けたかばんやアクセサリー、常連客が作った遊山箱を紹介した。

 客といろんな会話をしながら、アイデアが形になっていくのが特徴。「いらんもの市」は中山さんが提案し、常連客らが「やろうやろう」と喜んで協力した。家庭で眠っていた帽子や着物、かばんに値段を付けた。出品した商品がないのに気付いた人は「あれ、売れたんだ」と喜ぶ。

 現在は町内の作家から物作りを指導するワークショップの提案があり、開催に向けて準備している。中山さんは「美波は、好奇心旺盛で世話好きな人が多い。参加する人や見に来てくれる人が楽しめる店にしたい」と意欲を見せた。

「地域の人が楽しんでもらえる店にしたい」と話す中山さん=美波町奥河内

古民家を安らぎの場に 宿泊施設「さくら庵」

 昨年11月、ユニークな宿泊施設がお目見えした。築100年余りの古民家を改装し、軽食を提供する居酒屋とボディーケアサロンを併設する「さくら庵」。1人で切り盛りする東京都八王子市出身の橋本笑さん(41)は「長年の夢だったゲストハウスが経営できてうれしい」と表情に充実感があふれる。

 美波町は父の出身地。東南アジアなど海外での暮らしが長く、日本での定住を考えていたところ、知人の紹介で借りた古民家に一目ぼれした。もともと海が近く、暖かい場所が好きな上、「幼い頃、海や川で遊んだ楽しい思い出」もよみがえり決断した。

 民宿用の浴室や居酒屋のカウンター、手洗いなどを整備して開業した。1階に居酒屋、ボディーケアスペース、2階に宿泊客の部屋がある。古民家独特の木の温かみのある家は、利用者から「おばあちゃんの家みたいで落ち着く」と好評だ。

 日が暮れると、軒先のちょうちんが入店を誘う居酒屋「ばる二軒目」となる。知り合いの漁師から手に入れた海の幸のほか、「モロッコスムージー」(550円)やスペインの「小エビのセビージョ」(380円)など、海外の旅先で覚えた味を振る舞う。

 美波町を「時間の流れがゆっくりで心地よい」と言う橋本さん。「気軽に立ち寄り、リラックスしてもらえれば」と続け、新たな安らぎの場として人々を迎え入れる。

宿泊施設を切り盛りする橋本さん(右端)=美波町奥河内