無料開放のゲレンデでスノーボードを楽しむ男性。他に人影はない=つるぎ町一宇の剣山スキー場

無料開放のゲレンデでスノーボードを楽しむ男性。他に人影はない=つるぎ町一宇の剣山スキー場

 つるぎ町の中心部・貞光地区にある町役場から国道438号を南へ約35キロ進んだ先に剣山スキー場はある。12月~2月の土、日曜と祝日に限り、ゲレンデの一部を無料で開放しているが、リフトは稼働させておらず、店舗の営業もしていない、名ばかりのスキー場だ。2007年の営業終了から10年。剣山国定公園内にあるため、スキー場の看板を下ろしたくても下ろせないという苦し紛れの無料開放が続く。ゲレンデを訪れると、不思議な静寂が広がっていた。

 今季の無料開放が始まって2日目の17日午前10時ごろ、スキー場を訪れた。ゲレンデには約70センチの積雪があり、一面銀世界。天気の良い日曜にもかかわらず、人影は見当たらない。山頂方面へ向かって3本の足跡が伸びているだけだ。

 ロッジ内の電気は消え、入り口のドアも鍵が掛かっていた。ドアのガラスには「開放時間(土、日、祝日)午前9時~午後4時まで」と書かれた看板が外向けに立て掛けられているが、無料開放していることをはっきりと伝えるような注意書きはない。

 辺りは静まり返っている。リフトは動いておらず、係員もいないのだから当然だ。町は無料開放を始めた08年度は開放日に職員を配置していたものの、人件費抑制などの理由から09年度以降はシーズン中に何度か訪れる程度だという。

 開放されている3コースのうちの1コースを歩いていると、別のコースの斜面をスノーボードで勢いよく滑る1人の男性が見えた。美馬市の30代の男性会社員で、「塔の丸」の登山が目的だったが想像以上に雪が深かったため断念し、スノーボードを楽しんでいるという。

 リフトが動いていないため、15分ほどかけて斜面を上り、わずか1分で滑り降りることを繰り返す。「疲れるけど、他に利用者がいないゲレンデを滑られるのは魅力」と話し、独り占めのゲレンデを満喫しているようだ。

 この日は記者の他に、登山者と思われる1人がゲレンデを上っていくのを見ただけだという。先に見掛けた3本の足跡のうちの2本は男性、1本はその登山者のもののようだ。

 男性は毎年の開放期間中、何度か訪れている。雪合戦をしたり、かまくらを作ったりする家族連れの姿を見掛けることはあるが、同時にいる利用者は多くても10人程度という。

 町商工観光課は、開放期間中の利用人数は把握していない。

 記者は2時間ほどスキー場に滞在したが、男性の他に人は現れなかった。もしも1人だけの時に事故やけが、急病、天候の急変などに見舞われたらどうなるのだろうか。しばらく誰も気付かないこともあり得るのではないか。そんなことを思わずにはいられなかった。

 ■剣山スキー場■ 県営施設として1976年にオープン。95年、旧一宇村に移管され、2005年の合併後はつるぎ町営。ピークの95年度の利用者は3万4千人。98年に明石海峡大橋が開通した頃から利用者の減少が目立つようになった。設備投資の資金を起債でまかなったこと、国定公園内にありスキー場を廃止する場合は山林への原状回復が必要とされていることの2点の理由から廃止できないでいたが、起債は14年度末で完済した。