喜びの爆発 歌で表現

 第九の高い人気にはいくつかの要素がある。「歓喜の歌」の親しみやすいメロディー。人類愛をうたうシラーの歌詞。力強い大合唱にのせて、合唱初心者も存分に声を出せること。世界中で歌えるというのも魅力だ。

 全体の構成も感動的だ。合唱団は第1楽章から座って聴いていて、第4楽章の不協和音のファンファーレと同時にオーケストラとも一つになる。

 第1楽章の旋律が低弦に「こんな音じゃない」と否定され、第2、3楽章も「私が求めているのはこんな音でもないんだ」と否定される。そこで初めて歓喜の歌のメロディーが奏でられ、合唱団が立ち上がる。歓喜の旋律が産み落とされる過程を追体験して立ち上がる様は、会場全体の一体感の象徴だ。

 「おお友よ、この調べではない。もっと喜びに満ちた調べを歌い始めよう」。バリトンの呼びかけは、ベートーベンの声ではないか。こう考えると、第九の合唱をさらに楽しめる。喜びの爆発には言葉が必要だったのだろう。合唱の織り成すハーモニーが、独特の厚みを音楽に持たせる。私の合唱団も目指しているこの厚みあるハーモニーこそが、第九の醍醐味だと思う。