新型コロナウイルス感染者の立ち寄り先として徳島県が同意を得ずに店名を公表したのは財産権や営業の自由を侵害する違法行為だとして、藍住町のラーメン店「王王軒」の経営者らが県に損害賠償を求める訴訟を本年度内にも徳島地裁に起こす方針を固めたことが7日、分かった。新型コロナ感染者の動向に関し、店名や施設名の公表を巡って訴訟になるのは全国でも異例。行政の情報発信の在り方に一石を投じそうだ。

 王王軒の社長や代理人によると、昨年7月30日、感染者が立ち寄ったとして徳島保健所の聞き取りがあった際、店名の公表については何度も拒否した。しかし、飯泉嘉門知事は翌31日の定例会見で店名を発表。その結果、店で感染が発生したとの風評被害を招いたほか、客足が激減するなどした。これらの被害は石井町にある支店にまで及んだという。

 感染症法は差別や偏見を防ぐために「個人情報保護への留意」を定める一方、感染者の立ち寄り先の公表に関する具体的な規定はない。一方、国の指針である「飲食店等におけるクラスター発生防止のための総合的取組」は、感染経路の追跡が困難な場合は感染拡大防止の観点から公表について同意は必要ないとしている。しかし、代理人は「念頭にあるのは感染者が発生した飲食店名であり、王王軒では感染者が発生していない」としている。

 こうした点を踏まえ、王王軒側は「知事による店名公表は店の名誉や信用、営業の自由、財産権を侵害したほか、社会的相当性を著しく欠き違法だ」と主張。損害賠償請求額は検討中としている。

 代理人は「店が不利益を受けることは容易に想像できたはずなのに、その後のフォローは全くなく、県の手法に疑問を感じる。慎重に対応するべきだった」。社長は「公表の前日には検査で従業員の陰性が確認されていたのに、そうした発表もなく、大きな営業被害を受けた。訴訟を機に同様の被害が生まれないことを望む」と話した。

 日本弁護士連合会行政問題対応センター事務局長の水野泰孝弁護士は「店名公表で訴訟提起に至った事例は聞いたことがない」とした上で「立ち寄り先に過ぎない店を公表する必要性があったのか。裁判では公表の目的や緊急性などが争点になるだろう。明確なルールがない行政の公表手続きの在り方が問われている」と指摘した。