石巻市で活動する(左から)パルコさん、ミシオさん、富松さん=徳島市の徳島城博物館

 

 会場に一歩、入ると大きな「シカ」。流木で作られているが、血の流れを感じるほどリアルだ。徳島市の徳島城博物館で14日、東日本大震災後に宮城県石巻市に移住したアーティスト3人による作品展「芸術ハカセは見た!」が始まった。「シカ」の作者である富松篤さん(35)=和歌山県出身、震災直後から被災地支援をする徳島市出身のパルコキノシタさん(55)、ミシオさん(22)=京都府出身=が出品している。震災直後の悲しみや混乱、祈り、回復した日常-。7点の作品が、被災地の10年を映し出す。

 存在感を放つシカは、「漂着する存在の記憶」と名付けられた作品。富松さんは東京でアーティストとして10年間活動した後、2016年に石巻市に移り住んだ。牡鹿半島の漁村に住み、浜で拾った流木で創作している。

 「陸から海へ流れ、形を変えて戻ってくる流木。そこに、津波で失われた命の回復を重ねた。流された命を形にして残す必要があると思う」と富松さん。込められているのは犠牲者への祈りだ。

 移住後、船舶免許1級も取得し、創作活動の傍ら、漁師としても働く。「土地の飯を食って、土地で生きる」。そうした暮らしの中から、作品を生み出している。

 ◆ランドセルが映すもの

 展示会場の隅では、少女や水が描かれた80個のランドセルがうず高く積まれている。パルコさんの作品「女川に集められたランドセル」だ。震災時、「宮城県女川町でランドセルが津波に流された」という報道を受け、町には全国から数千個のランドセルが寄せられた。町が保管する余ったランドセルの一部をパルコさんが譲り受け、子どもたちとのワークショップに使った。

 「制作したのはまだ、現地が混乱していた頃で、子どもたちが大変な思いをしていた。大量のランドセルが寄付され、なぜか一部が自分の手元に来たことも含め、この作品自体が震災の記録」とパルコさんは言う。

 新型コロナウイルスの感染が広がり、「ステイホーム」する中でパルコさんが完成させたのが、全長10メートルにも及ぶ「阿波狸合戦図」。この作品の制作のきっかけも震災だ。「村が失われると、そこで伝承されていた言い伝えも消えてしまう。昔話を守るのもアートの役割だ」と地元徳島に伝わる狸合戦の伝承を描き出した。コミカルに描かれた狸、リアルに描かれた狸。タッチも表情も違うたくさんの狸たちが楽しい。

◆石巻の「今」映す

 ミシオさんの「路上のゴミに顔を描く」は道に落ちているマスクや手袋に顔を描き、その様子を写真に収めた作品群。「路上のゴミは、本来行き着く場所から脱出したかのよう。決まってしまっている将来からの『逃避』のイメージが重なる」とミシオさんは言う。

 石巻市では「石巻の『今』を見詰めたい」という思いで創作をしている。 

◆アートの力とは

 震災当時、東京に住んでいたパルコさんは直後から被災地に入り、アートを通じたコミュニティー再生に取り組んだ。「阪神大震災時には東京にいて何もできなかった。だから次、何かあれば絶対駆けつけようと決めていた」。

 被災地で、アートにはどんな力があるのか。パルコさんは言う。「アートは絶望の中で希望を見いだす手掛かりにもなるし、データには出てこない『心』の記録ともなる。多数の犠牲者が出る中、『死んだら終わりなのだろうか』とたくさんの人が思う中で、魂や神を描き出せる。あるかないか分からないようなものを形にして、みんなに見せることができる」。

 被災地の日常にアーティストが寄り沿う中で生まれた作品に、会いに行こう。

【芸術ハカセは見た!】

 1月14日から22日まで、徳島城博物館で開催。徳島市の早渕太亮(たいすけ)さんがゲスト参加し、実際に出会った人たちのシルエットを作品にした「街の灯り」を出品している。16日午後1時からはアーティストによる作品解説がある。