京都府長岡京市の山あいにあり、1200年以上の歴史を持つ楊谷(ようこく)寺。平安時代から眼病平癒の祈願所として信仰を集め、本尊の「柳谷観音」の愛称で親しまれる浄土宗の名刹(めいさつ)だ。その住職を2015年から務めている。「自分のためではなく他人のために尽くす『利他』の精神で、困る人を支える存在でありたい」と力を込める。

 阿南市の兼業農家の長男として生まれた。大学在学中、住職の娘で後に妻となる恵さん(47)との出会いをきっかけに仏門に入った。バブル景気のさなか。有名企業に就職したり家業を継いだりする選択肢もあった。「親やきょうだいには申し訳ないし、友人からは変わったやつだと言われたが、歴史ある土地で自分を試したいという思いが強かった」と振り返る。

 大学院に通いながら寺で2年間修行し、修行僧の指導や寺の管理など実務全般を受け持つようになった。今年3月25日に行う晋山(しんざん)式の法要をもって名実ともに楊谷寺住職となる。

 歴史ある寺であっても、寺を支える組織の高齢化や知名度低下などに直面している。このためホームページや会員制交流サイト(SNS)を通じて積極的に情報発信しているほか、限定朱印の発行、体験教室開催などの取り組みを始めた。

 「寺の将来に危機感はあるが、突拍子もないことをしていては道を誤る。積み重ねてきた歴史を伝えるとともに、訪れた人に癒やしを与えられる場にしていきたい」と意気込む。

 古里を離れて約30年になる。帰省するたび、橋や高速道路の整備が進んでいることに驚いているという。「小さい頃の夢がどんどん現実になっている。古里はいつまでたっても懐かしいもの。常に注目しています」と穏やかに話した。

 くさか・しゅんえい 本名・英晃、旧姓は松本。小松島高、龍谷大文学部を経て同大大学院博士課程修了。楊谷寺は806年に開山され、空海が広めた眼病に霊験がある「独鈷水(おこうずい)」の出る寺として有名。西山浄土宗教学研究所講師や民生・児童委員なども務める。長岡京市在住、47歳。