新鮮な食材がそろう徳島県内各地の産直市は、わざわざ遠出してでも行きたい場所。その土地で収穫された農産物とあわせ、お楽しみはお総菜コーナーにもある。地域の人が腕を振るうおすしやおかず、スイーツはそこでしか手に入らないものがほとんど。出品されたそばから売れていく「噂のうまいもん」を作った人を訪ねた。

桜川三代子さん(阿波市出身)

 この、ふわわわ〜んとした食感を何と表現すればいいだろうか。頬張れば口の中で溶けていくような柔らかさ…。阿波市の桜川三代子さんが作るシフォンケーキは、食べた人をたちまち虜にしてしまう。農産物直売所のJA夢市場(阿波市)と阿波食ミュージアム(石井町)で販売され、平日は1日に約40個、週末には60個ほどが並び、飛ぶように売れていく。

写真を拡大 シフォンケーキ(1ホール580円~780円)手前がみかん(680円)、奥がプレーン(580円)。カット売りもしている。

 「昔からパンやケーキを焼くのが好きで、家族や知り合いに食べてもらってたんです。あるとき友人にバナナシフォンを焼いたらすごく喜んでもらえて」とチャーミングな笑顔をこぼす桜川さん。味噌も豆腐も自家製という家で育ち、手伝いをするうちに料理することが大好きになった。その腕前を知る友人たちに背中を押され、12年ほど前からシフォンケーキやクッキーなど焼き菓子を販売するようになった。

写真を拡大 たっぷり生クリームを包み込んだ生シフォン(1本680円/JA夢市場で販売)。

 大好評を得ているシフォンケーキのふわっふわの秘訣は「メレンゲの泡立てのタイミング」と言う。「ベーキングパウダーや膨張剤は使わず、卵の力でふわふわに焼いています。卵白を柔らかすぎず硬すぎずの状態になるように泡立てるんです。すくい上げたときにメレンゲがお辞儀するような感じです」。これは桜川さんが何年も試行錯誤を重ねて得た感覚だ。最初は思うように膨らまず失敗することもあった。「何でだろうって考えて、小麦粉もいろんな種類を試しました。毎日作るうちにメレンゲの微妙な泡立て具合がポイントだと気づいたんです」。

 そして驚くのは100種類を超えるレパートリーだ。カカオの割合が違うチョコレートを何種類もブレンドする「チョコ」や、勝浦町で自ら収穫したミカンを搾って果汁をたっぷり入れる「みかん」。「ほうれん草」は家の畑で栽培したものを使い、ミキサーではなく挽き臼器で栄養素を壊さず汁だけを抽出して生地に混ぜている。レモンや甘夏、夏みかんは自宅の庭木で農薬を散布せずに育てた果実が活躍する。柚子、なると金時、人参、スダチ、レンコン、桜など季節の素材を取り入れたものから、紅茶や珈琲、ほうじ茶、きな粉などシーズン問わずのシフォンまでバラエティに富んだ味で楽しませてくれる。

 定番はプレーンとチョコで、それと合わせ平日は4、5種類(火曜は休み)、土日は多いときで10種類を作るパワフルさだ。「昨日は豆乳をしたから今日は抹茶にしようかな? しばらくアレしてないから久しぶりにやってみよう、という感じです」。

 そんな桜川さんのひらめきを家族がサポートしている。材料の買い出しや素材の下準備、配達などを夫の文雄さんが、焼き上がった商品のカットや袋詰めを娘さんが担う。「みんなでアイデアを出し合ってケンカしながらやってます(笑)。栗の時期は3人で山盛りある栗の渋皮むきをするんです。大変だから今年はやめよかって思うけど、やっぱり栗シフォンは美味しいから」と協力体制が敷かれる。1ホールが580円〜780円、1カットが160円〜200円という手頃な価格も人気のひとつ。「気軽に食べてほしいし、喜んでもらえるのが嬉しい」と値上げはしてこなかった。そんな想いがメレンゲとともに軽やかに生地に込められる。 

写真を拡大 売り場にずらりと並ぶシフォンケーキ。

【販売店】
毎週火曜は桜川さんがお休みのため、両店ともに出品はなし。

JA夢市場
住所=徳島県阿波市市場町大野島野神77-1
0883-36-5332
営業時間=9:00~18:00
定休日=第3水曜休

阿波食ミュージアム
住所=石井町高原中須154
088-677-7831
営業時間=8:30~18:00
定休日=1/1〜1/3のみ休