新鮮な食材がそろう徳島県内各地の産直市は、わざわざ遠出してでも行きたい場所。その土地で収穫された農産物とあわせ、お楽しみはお総菜コーナーにもある。地域の人が腕を振るうおすしやおかず、スイーツはそこでしか手に入らないものがほとんど。出品されたそばから売れていく「噂のうまいもん」を作った人を訪ねた。

米田美智子さん(阿波市出身)

 こんな押し寿司初めて!と思わず興奮してしまうのは、農産物直売所JA夢市場(阿波市)の惣菜コーナーに並ぶ、さわらの押し寿司(550円)だ。鰆に加え海老や玉子、桜でんぶやグリーンピースがのせられ、その華やかさに惹かれる。正方形に整えられ2つ入りになったパックを手にすると、ずっしりと重い。「特製の木枠で作っていくんだけど、1つにつき1合分くらいの酢飯を使っているのよ」と製造者の米田美智子さん。酢飯は優しい酢の風味と上品な甘さが秀逸だ。ザクッと箸を入れると中層部からは細かく刻んだ具材が出てくるというサプライズ。「中の具は椎茸、筍、ニンジン、ゴボウ、竹輪、蒲鉾、高野豆腐、油揚げなどを昆布出汁と鰹出汁、薄口醤油や砂糖で味つけしています。出汁を取った後の昆布も刻んで入れているのよ」。大ぶりのネタと中に仕込まれた豊富な具材で酢飯が進む。

写真を拡大 さわらの押し寿司(550円)箸を入れると中から具材が出てくるのが楽しい。東かがわ市の「五名ふるさとの家」でも販売している。

 夢市場では開店の朝9時に合わせて押し寿司が並べられる。一度食べてハマったとリピートする人や美味しいという噂を聞きつけたお客が多く、お昼には売り切れてしまう。そんな人気の理由を「やっぱり酢飯の味つけかな」と米田さん。製造を手伝う大北千佐子さん(63・阿波市出身)は「使っているのは昆布や砂糖、穀物酢など、どれもスーパーで手に入るものなんですが、米田さんにしか出せない絶妙な風味があるんですよ。ちょっとした何かが違うんだと思う」と話す。米田さんは「昆布出汁の取り方、調味料の割合、ご飯との混ぜ込み方がカギなの。まだ誰にもレシピは教えてないのよ。現役のうちは自分でやらなくっちゃね」と茶目っ気たっぷりに言う。

 28歳のとき、香川県で飲食店をオープンさせた。「夜は宴会なんかもやっていて、腕を磨くために知り合いの板前さんから割烹を教わったの」。両親の体調が悪化したこともあり、平成3年に阿波市市場町の生家に戻った。米田さんの腕を知る近所の人たちから、料理を作ってほしいと頼まれることが多々あり、平成10年に予約制の小料理店「花房」を開店させた。現在は新型コロナウイルスの影響で一時休業中だが、営業時にはぼたん鍋やすっぽん鍋、松茸や猪肉料理などがいただけるとあって県内外からお客が訪れる。

写真を拡大 魚寿司(550円)のネタは季節によって変わる。写真のネタはアジで上には生姜が乗る。アクセントになって美味しい!

 「押し寿司は香川時代からずっと作っていて、自分なりに試行錯誤しながら今の味に辿り着いたの。納得いくまでに30年はかかったかな」。夢市場には10年前のオープン当初から出品している。米田さんは毎日、午前3時から台所に立ち仕込みをする。「押し寿司だけじゃなくて、ちらし寿司や魚寿司、赤飯も作っているので、たくさんお米を炊かないといけないの。土日は1日に100合くらいの酢飯を準備しますよ」。6時ごろになると、米田さんの娘さんやお手伝いのスタッフが合流。皆で朝の大仕事をテキパキとこなしていく。「美味しいって言ってもらえることが活力になっているの。歳を取っても、待ってくれている人がいると思うと、まだまだ頑張らないとって思います。休んでられないのよ」と頬を緩ませる。

【販売店】
JA夢市場
住所=徳島県阿波市市場町大野島野神77-1
0883-36-5332
営業時間=9:00~18:00
定休日=第3水曜休