イタリアとドイツを拠点に世界約20カ国を巡って料理修業を積んだ。昨年春、約15年の海外生活にいったんピリオドを打ち帰国。6月に東京・西麻布に開店したイタリア料理店「サッカパウ」のエグゼクティブシェフとなった。

 「サッカパウ」はシチリア語で「完成した」の意味。言葉の響きなどが気に入り、店名に採用した。友人のオーナーに店の場所探しから任され、空間プロデュースも手掛けた。地下1階、隠れ家的な雰囲気。シックな店内に照明が効果的に使われている。「日本にないような店にしたかった」と、磨いてきた感性を細部にまで反映させた。

 最も特徴的なのは、オープンキッチンを採用した点。店内中央に置かれた大きなカウンターに立ち、調理する様子を客に見せながら会話を交わす。「全てをさらけ出す怖さはあるが、その緊張感を乗り越えることで日々成長できる」。新たな素材の組み合わせや色鮮やかな仕上がりに驚いたり「おいしい」とほほ笑んだりする客を間近で見られるのは「料理人として至福の時」と語る。

 大阪市の専門学校に通いながらイタリア料理店でアルバイトをした経験が料理人への道につながった。「イタリアンを究めたい」と、23歳でローマへ。言葉や文化の違いに戸惑うこともあったが、独学で身につけたことが予想以上に通用して自信を深め、各地で触れた料理や人々から多くのことを吸収してきた。

 徳島産の食材を使うことも多く、「品質は世界に胸を張れる」だけに、知名度の低さが残念だという。「日本料理『青柳』の小山裕久さんの活躍で鯛(たい)やスダチが有名になったように、徳島から発信する料理人が出てほしい」。今後については「東京にとどまるつもりはない。国内外問わず活動の場を探る。いつかは徳島にも店を出したい」と、飽くなき向上心を見せた。

 たぶち・たく 鳴門市出身。県立水産高校(現・徳島科学技術高校)を卒業後、大阪市の海洋関係の専門学校に通いながらイタリア料理店でアルバイトをするうちに料理人の道へ。23歳でイタリアに渡り、10店舗以上で勤務した。30歳のころドイツ・ハンブルク市へ移り、現在も同市の飲食店2店を共同経営している。東京都渋谷区在住。38歳。