浄化槽のふたが開いていて、幼い息子が落ちそうになった―。徳島新聞「あなたとともに~こちら特報班」に、徳島市の40代父親からこんな情報が寄せられた。自宅の浄化槽を点検していた業者が安全対策をせずにその場を離れたのが原因。大事に至らなかったとはいえ、他の家庭でも起こりかねない危険な事案だ。防止策を取材した。

 昨年11月中旬の午前8時半ごろ、徳島市に住む4歳の男児が自宅の玄関から駆け出した。幼稚園に向かう毎朝の光景。いつもと違ったのは、敷地内にある合併処理浄化槽(深さ約2メートル)のふたが開いていたこと。

 後ろを歩いていた父親がそれに気付き、追い掛けて服の襟をつかんだ。男児はあと一歩で転落するところだった。「心臓が止まりそうだった。もし息子が落ちていたらと思うと、今でもぞっとする」

 ふたが開いたままになっていたのは、保守点検業者が給水栓にホースをつなごうと現場を離れたためだった。転落防止の柵や看板は設置されておらず、そもそも予定より1日早く訪れて作業を始めていたという。

 環境省によると、1989年に群馬県で幼児が転落し、死亡した事例がある。群馬のケースでは設置者の住人がふたを開けた後、ふたがずれた状態になった上に幼児が乗ったのが原因とみられる。父親は「今回は無事で良かった。事故が起きないよう業界全体で安全対策を徹底してほしい」と訴えている。

 浄化槽の点検は、水の汚れを取り除く微生物の健康状態を確認するのが目的。徳島県に登録している専門業者約140社が各家庭で年3、4回、槽内の水質や汚泥の状態をチェックしている。浄化槽管理士の資格試験を実施する日本環境整備教育センターのガイドラインでは、転落事故を防ぐために「必要に応じて防護柵等を設置する」としている。

 父親から連絡を受けた県は11月下旬、登録業者らに文書を出した。現場を離れる際はふたを閉めるほか、防護柵を設置したり見張り員を配置したりして安全確保に万全を期すよう求める内容。直後に開いた研修会でも約90人の浄化槽管理士に周知した。

 下水道整備が遅れている県内では、合併処理浄化槽の普及率が41・3%と全国で最も高い。県は水質悪化を防ぐため、合併処理浄化槽の整備を加速させる方針で、作業中の安全確保はより重要になる。

 「事故があってからでは遅い。業界がもっと意識を高めないといけない」。こう強調するのは、浄化槽の清掃業者でつくる県環境整備事業協同組合の中川幸彦理事長。中川理事長が社長を務める清掃会社は保守点検業も手掛けている。

 中川理事長によると、一部には安全対策だけでなく点検業務自体をおろそかにしている業者もいるという。そこで、安全対策の徹底や技術向上を図ろうと、理事長らが発起人となり、保守点検業者の協同組合(久保真二理事長)を11月中旬に設立した。

 中川理事長は「業界が自ら襟を正し、県内の保守点検事業の質を高めていく。県も取り組みをサポートしてほしい」と話している。