新型コロナウイルス感染患者を搬送する保健所職員ら=12日午後、徳島市八万町のクレア城南

 新型コロナウイルスの脅威は私たちの道徳観、倫理観を一変させた。感染者らに対する差別や誹謗中傷は「コロナ隠し」を招き、さらなる感染拡大につながりかねない。感染は誰の身にも起こりうる。心ない差別に苦しむ感染者らの姿は、明日の「自分」かもしれない。分断のない社会をつくるためにも、コロナに直面した人たちの声に耳を傾ける。

 12日午後、徳島市の眉山の麓に広がる閑静な住宅街が物々しい雰囲気に包まれた。入所者と職員合わせて34人の新型コロナウイルス感染が判明した有料老人ホーム「クレア城南」。防護服の保健所職員らが慌ただしく行き来し、感染者がストレッチャーや車いすで次々に搬送されていく。緊迫した空気が張り詰め、入所している高齢女性が自室の窓から不安げにその様子を見詰めていた。

 「こんな事態を招いてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱい」。運営する「クレア」(藍住町)の代表はショックを隠せない。厚生労働省の通達に基づき、マスク着用や手指の消毒、検温などの感染対策は取っていた。しかし、ウイルスはその間隙(かんげき)を擦り抜けた。

 感染者は徐々に増え、クラスター(感染者集団)の規模は県内最多の48人にまで膨らんだ。「入院している人が元気になるのを願いながら、残った入所者とスタッフに対する心のケアや支援に精いっぱい取り組んでいる。元の日常を早く取り戻したい」。代表はそう言葉を絞り出した。

 高齢者施設でのクラスター発生は県内では3例目。感染対策の難しさが改めて浮き彫りになるとともに、流行の「第3波」の到来を印象づけた。ある介護事業所の男性管理者は戦々恐々として言う。「いつ、どこで感染者が出ても不思議ではない。『明日はわが身』との不安は広がっており、現場は常に臨戦態勢だ」

 男性管理者によると、感染リスクが最も高まるのが入浴の介助時。利用者がマスクをしていないためで、濃厚接触の基準(1メートル以内で15分以上の接触)に該当する状況にならざるを得ない。介助者側も蒸し暑い浴室でマスクをすると息苦しく、フェースシールドも曇りやすいため、つい外したくなるという。より手厚い介助が必要な利用者が多い特別養護老人ホームなどでは、感染リスクがさらに高まる恐れも懸念される。

 ウイルスを持ち込んだり拡散させたりしないよう、施設側も細心の注意を払っている。大抵の施設では入所者と職員の体温を1日に3回測って記録し、休みの職員にも求めている。「職場には感染者を出してはならないとの緊張感が張り詰めており、職員が強度のストレスと向き合っているのは確かだ」と男性管理者は指摘する。

 比較的元気な高齢者が集うあるケアハウスの女性相談員は、外出した入所者や面会者によるウイルスの媒介を懸念している。入所者には認知症の人もおり、行動履歴などを正確に把握するのが難しい場合もある。「人混みを避けるようにお願いしても理解してもらえず、困惑している」と明かす。

 マスクをせずに外から帰る入所者も少なくない。何かの拍子で外してしまい、そのまま着けるのを忘れてしまうケースもある。中には「自分は感染しないのでマスクをする意味はない」と、拒絶する人もいるという。「マスク着用や手洗いなどを呼び掛けてはいるけど、どこまで効果があるのか。感染者を出さないという保証はない」と女性相談員。

 徳島市の女性介護士(38)は「こちらがマスクをしていても、いつ感染するか分からない。私たちも本当に怖いんです」と現場の苦悩を吐露した。