2012年10月から東京都小金井市のカフェの一角を借り、徳島産食材の紹介や販売をする「てのひらストア」を月1回開いている。昨年11月には古里・佐那河内村の阿波踊り連を小金井市の秋祭りに招き、約40年の歴史がある小金井市の連との共演を実現させた。「人のぬくもりや自然の恵みといった徳島の豊かさを都会の人に感じてもらうことで化学反応が起こり、次代に残せる新しい価値観が生まれるはずだ」との思いを、徳島と都会をつなぐ試みに込めている。

 きっかけは、長男が4歳だったときに発生した東日本大震災。食の安心安全に不安を募らせる友人たちに佐那河内村で暮らす母が作っているコメの提供を申し出ると、予想以上の注文があった。古里の食材が都会のニーズを満たすことに心が動いた。

 都内各所で開かれる朝市に参加していた徳島市の欧風産直市「とくしまマルシェ」に協力を仰ぎ、01年から暮らす小金井市にも食材を届けてもらえるようになった。レンコン、なると金時、シイタケ…。「買っていった人がその晩、徳島の食材で食事を作ると思うとうれしくてうれしくて」と相好を崩す。

 昨年からは参加型のカフェも開催。佐那河内村産のスダチを使ったポン酢や郷土料理「いり飯」作りのほか、藍染などを使ったワークショップを行っている。活動は徐々に地域に浸透しつつあり、年末には地元のけやき通り商店会の仲間入りを果たした。

 3月から佐那河内村が始めた「ふるさと住民票制度」に登録し、名実ともに村を盛り上げる役割を担った。人口約2500人の村は過疎高齢化が進むが「観光地がないからこそ人が来る時代が来る」と捉える。「目指すのはオンリーワン。村の個性を引き立たせ、その価値が認められるように仕掛けていきたい」。

 いでら・よしか 佐那河内村出身。旧姓坂本。城南高、上越教育大を卒業後、都内で厚生労働省の外郭団体や酒類販売会社に勤めた。結婚を機に2001年から小金井市に住み、12年10月から同市で徳島産食材を紹介する「てのひらストア」を開設。同市と佐那河内村の交流もサポートしている。45歳。