陰性にもかかわらず、根拠のないうわさに苦しんだ女性。世間の目を気にし、自宅にこもる時間が増えた=県内

 「私、コロナになった。ごめんやけど、○○ちゃんも検査受けて」

 昨年、県内に住む60代の無職女性に、新型コロナウイルスに感染した友人から電話があった。友人とは飲食店でよくおしゃべりをする仲。保健所に濃厚接触者と認められ、夫とともにPCR検査を受けた。

 数年前、1年に3度も肺炎を患ったことがあり、特に呼吸器系の疾病に不安がある。インフルエンザや肺炎球菌の予防接種も医師の指示で毎年受けている。「もしコロナにかかっていたら・・・」。持病がある夫も重症化リスクは高く、2人とも不安で眠れなかった。

 検査結果は翌日判明し、いずれも陰性。夫婦で大喜びした。それから2週間の健康観察が始まり、頭痛や息苦しさ、味覚・嗅覚の異常など体調に変化がないかを保健所に毎日聞かれた。

 「もし偽陰性で、誰かにうつしたら大変」。そんな思いで日々を過ごし、不要不急の外出は控えた。スーパーではマスクを二重に着けてゴム手袋をはめ、できるだけ短時間で買い物を済ませた。陽性や濃厚接触者になった友人らとは電話で励まし合った。

 観察期間中に異常はなく、2度目のPCR検査も陰性だった。保健所の職員から「今日で観察は終わりです」と言われ、やっと安心した。それでも、大事を取って外出自粛を続けた。

 最初の検査から40日ほどがたち、「もう大丈夫だろう」といつもの銭湯に行った。玄関に入ると、突然、「入らんといて! あちこちで菌をばらまいてからに。あんたのせいで客が減ったわ。もう来んといて」と、銭湯の責任者から大声で言われた。

 自分がコロナに感染しながら街を出歩いている、とのデマが広がっていた。「二度と来るか」と反発して帰ったものの、悔しさで涙があふれた。20年間、毎日のように通った愛着のある銭湯で、なじみの客や職員がそんなうわさを信じていたのが悲しかった。

 落ち込みやすく、周りの目が気になる性格。思い出すと眠れず、心療内科で出してもらった睡眠薬を毎晩飲んでいる。「あんな思いは二度としたくない」と今も外出を控え、心配してくれる友人にも迷惑が掛からないようできるだけ会わないでいる。

 女性は2度の検査で陰性だったにもかかわらず、心ないデマが広がった。「感染した人は退院後もばい菌扱いされるなど、もっとひどい誹謗中傷に苦しんでいる。自分に関係ない人に対して世間は本当に冷たい」

 差別した側はすぐに忘れるかもしれない。しかし、された側の心の傷は簡単には癒えない。「コロナが収束しても、元の人間関係には戻らない」。自宅の窓からぶ厚い雲を見上げ、そうつぶやいた。