飯泉知事が新型コロナの感染源となった可能性を指摘した徳島駅前

 「注意喚起する必要があるため、立ち寄り先が徳島駅前の飲食店だとあえて言う。県外客がかなりいたので、そこから感染したのではないか」

 飯泉嘉門知事は昨年12月19、20両日の会見で、189例目の新型コロナウイルス感染者の感染源についてこう述べた。19日に飲食店を訪れた感染者は県内の公務員で、仕事の関係者3人と一緒だった。

 感染源の見立ては、感染者の行動歴や接触者を追跡する「積極的疫学調査」に基づく。県によると、この飲食店を訪れた県外客に感染者は確認されていない。つまり、県外客が多いという理由だけで感染源となった可能性を指摘したというわけだ。

 飲食店の男性従業員は知事の見解に反論する。「県外客は確かに多い。だが、住所を逐一確認しているわけではなく、県外客が当時いたかどうかは分からない。従業員にも感染者はいないのに、感染源と安易に決めつけるのはおかしい」

 飲食店は県の感染予防ガイドラインの実践店で、公務員らが着いたテーブルは1席ずつ間隔を空けている。従業員によると、県による疫学調査は店内の状況の聞き取りだった。

 また、この公務員は来店の2日後に鳴門ポカリスエットスタジアムであった徳島ヴォルティスの試合を観戦している。知事はそこを感染源とはしなかった。従業員は「県が応援しているヴォルティスは、いわば身内。その身内を守るために科学的な根拠もないまま、駅前の飲食店を利用して県外客のせいにした。情報操作にほかならない」と強く非難する。

 2日間にわたって知事から「徳島駅前の飲食店」が感染源扱いされたことで、駅前の客足は激減した。年末の書き入れ時にもかかわらず、この飲食店では売り上げが前年の7割ほどに落ち込んだ。「社会の風潮に乗って飲食店を攻撃しているとしか思えない。駅前で働くどれだけの人が危機にさらされたか、県は理解していないのだろう」

 駅前にある県外客に人気の居酒屋は「ここで感染者が出た」と取引業者にうわさされた。事実確認の問い合わせもあり、デマによる風評被害を恐れたオーナーの男性(70)は懸命に否定して回ったという。「(知事は)警戒感を強めたかったのだろうが、感染源がはっきりと分からない場合は公表しないでもらいたい。中途半端な発表をされるとその分、ダメージが広範囲に及ぶ」と訴える。

 東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は「影響力を理解せず、根拠の不明確な言葉を知事が発したことは極めて遺憾だ。注意喚起ではなく、徳島駅前は危険との恐怖感をあおり、県民に飲食店や県外客への偏見も植えつけた」と問題視する。

 さらに、感染者が激増した今の状況では感染源の特定は難しく、どこで誰が感染してもおかしくないと指摘。「ウイルスに県境は無関係であり、感染源を県外由来にして県内の安全性をアピールする考えはいかがなものか。排外的な感情が暴走すると、差別の助長につながりかねない」と警鐘を鳴らす。