クラスター発生前から店の玄関に設置している検温器。店側は「マイクの消毒や換気などの感染対策はしていた」と主張する=阿南市津乃峰町のモンレーヴ

 昨年8月、阿南市のカラオケ喫茶「モンレーヴ」の経営者や客が新型コロナウイルスに感染した。常連客を介して別の店にも広がり、県は2次感染を含めた感染者数を28人とした。飲食店のクラスター(感染者集団)は県内初とあって、徳島新聞などマスコミ各社は大きく報じた。

 「店では従業員も客もマスクをせず、マイクの消毒もしていなかった」。飯泉嘉門知事は会見でこう強調し、業界のガイドラインに反して顧客名簿がなかった点を批判した。徳島新聞は会見の内容とともに、動揺する周辺住民の声や店の写真も掲載した。

 「まるで事件のように報道され、地元で有名になった。店へのバッシングは今もやまない」。元経営者の50代女性は苦しい胸の内を明かす。店は12月に営業を再開し、実質のオーナーだった60代男性店員に経営者の名義を変更した。

 退院後の10月、その男性の車のタイヤがパンクした。左側の前後2本で、共に同じ位置にくぎが刺さっていた。男性は「偶然ではあり得ない。悪質な嫌がらせだ」。ネットには「たたかれて当然」「市は罰を与えるべき!」といった書き込みが相次いでおり、女性は「怖くなった」。

 関連クラスターに認定された小松島市の「カラオケスナックつき」にも被害は及んだ。「コロナヤロウ デテイケ」と記した投書が郵便受けに入っていた。入り口の張り紙もはがされた。通行人からは店をじろじろと見られ、指をさされた。70代女性経営者は「こんな目に遭うのを県や新聞社は考えてくれたか」と憤る。

 11月に営業を再開しても客足は戻らず、家賃やカラオケ機材のリース代がかさむ。信用を取り戻すのは容易でなく、今年1月22日の営業を最後に店を閉めた。「店が生きがいだった。こんなことがなければずっと続けたかった」

 嫌がらせや中傷が過激になった背景には、飛沫(ひまつ)感染のリスクが高いとされるカラオケをマスクを着けずにしていた状況にもある。モンレーヴの女性元経営者は「その点は反省している。店で感染が広がり、多くの人に迷惑を掛けて申し訳ない。世間から非難される中、支えてくれた友人にも感謝したい」と話す。

 だが、県の発表には不満がある。「検温やマイクの消毒、換気などの対策はしていた」と主張。顧客名簿については「いつ誰が来店したかは伝票を見れば分かる。8月の来店客のほぼ全員に連絡して検査を受けるよう促した」と反論する。「ずさんな店のように言われたのが悔しい」

 県は発症時期などを根拠に、この女性から感染が広がったとみる。しかし、女性の認識は違う。「誤った発症日を基に感染源だと決めつけられた。症状を自覚しながら接客したと捉えられ、世間で犯罪者のように言われた」と嘆く。

 さらに発表では、ある感染者の来店日が臨時休業した日になっていた。新聞でそれを知った女性が本人に訳を尋ねると、「勘違いして保健所に言った」との返事だった。他にも、つじつまの合わない来店者の情報があるという。

 「つき」の女性経営者も「利用客として発表された感染者の一部に、来店していない人が含まれている」といぶかる。両店の話からは、感染経路や行動歴を追う積極的疫学調査の限界がうかがえる。

 県健康づくり課は「県民への注意喚起を急ぐ必要もあり、感染者からの聞き取り内容を信じて公表するしかない」としている。

 メディアには、陽性者の数を報道するだけでなく、どんな人がどういう状況で感染したかを伝え、感染拡大抑止につなげる役割が求められる。だが、報道によって感染者が誹謗(ひぼう)中傷を受けるとしたら、県の情報が正確でない恐れがあるとしたら―。この問題にどう向き合うべきか。

 専修大の澤康臣教授(ジャーナリズム論)は「初期の段階では県の発表内容を迅速に伝え、今何が起きているかをきちんと報道する必要がある。苦情を恐れて情報発信を控えていてはメディアの役割を果たせない。ただし、センセーショナルな表現は避けるべきだ」と指摘する。

 さらに、こう続けた。「当事者から異議が上がっているなら、その声も取材して報じるのが望ましい。多様な情報を伝え、マイナスの影響を緩和していく。闘うべきは情報ではなく差別だ」。 =おわり