大学4年の冬休み、インド東部のコルカタにあるマザー・テレサが創設した施設でのボランティアに参加した。物乞いする人々が差し出す手は骨と皮だけ。年齢も性別も分からない。「明日は亡くなっているかもしれない」。貧困のレベルがこれまで訪れた国々とは違っていた。翌日には、生後間もない赤ちゃんが裸のまま排水溝に捨てられて亡くなっていた。
ショッキングな出来事に直面し落ち込んでいると、施設で働く日本人シスターに言われた。「草の根運動は私たちが続ける。日本の大学で学ぶあなたには知識も教養もある。それを生かせば根本となる制度や政策を変えることができるんじゃないの」。途上国支援に関心を抱き、大学2年から国際ボランティアを続けてきた思いをいっそう強くし、外交官の道を選んだ。
2012年7月からはケニア大使館で初の在外公館勤務を経験。ケニアの外政、大使の政策秘書、日本の立場を正確にメディアに伝える政策広報などが主な職務で、充実した2年間を過ごした。離任の際、現地の技官らから「あなたのおかげでケニアと日本の関係が一気に進んだ」と感謝されたことが自信となっている。
治安の良さ、物質的な豊かさなど、日本に対する世界各国の好感度は「一般の日本人が思っているよりいい」と強調。今後の目標として「相手国のことも考慮した上で日本の立場をしっかりと説明し、お互いに満足できる結果を生み出すタフなネゴシエーター(交渉官)になりたい」とほほ笑む。
母校・徳島文理高校などで講演し、外交官としての体験談を伝えることもある。徳島の若者に対し「県外、海外に出て自分の目で見て、実際に体験することを勧める。そうすることで自分がいる所のありがたみや良さが再発見できる」とエールを送った。
かしわぐち・あつこ 徳島市出身。徳島文理高、東京大法学部を卒業後、2008年に外務省入省。国際協力局地球規模課題総括課で日本の政府開発援助(ODA)の理念構築などの業務に携わった後、米プリンストン大への留学を経て、ケニア大使館に書記官として2年勤務した。同局開発協力総括課を経て16年11月から現職。東京都北区で夫と2人暮らし。32歳。