洋画や日本画、彫刻、工芸、書道という美術全般の話題を取り上げる月刊新聞「全日本美術」。紙面で美術界の動向を論評するライターであり、経営責任者でもある立場に就き30年が過ぎた。「今まで続けてこられたのは奇跡」と笑顔を浮かべる。

 美術との出合いは阿南高専在学時。選択科目だった美術の授業で、外部講師の洋画家井上速男さん(故人)に誘われ油絵を学び始めた。直後からグループ展や公募展に出展し、卒業して兵庫県尼崎市内で働き出した後も京都府内の団体に入り絵筆を執った。

 転機となったのは仕事に行き詰まりを感じていた34歳の時。当時の経営者に請われ、新聞社を引き継ぐことにした。「絵を見るのは好きだったし、新聞購読者は約3千人いるとの話だった。何とかやっていけると思った」

 ところが経営者の交代を機に購読をやめる人が続出するなどし、就任時はわずか200人程度に。不安を抱えながら全国の美術展を巡ってA4判16ページの紙面を埋め、同時に営業活動にも力を入れて経営を安定させた。「仕事を初めて間もない頃、日本画家の東山魁夷に取材することができた。その感激が大きく、仕事を続ける原動力となった」と振り返る。

 現場主義を貫き、今も各地の美術展に足を運ぶ。「カリスマと呼ばれる芸術家が次々と亡くなり、美術団体は内向き志向が強くなった。政治や行政、企業も文化活動に冷ややかで、日本の美術界は非常に厳しい状況にある」と胸を痛める。「美術家や評論家が集まって自由に話し合うサロンのような場をつくれないか考えている」とも。

 井上さんの教え子らでつくる徳島の絵画団体「Qの会」に所属し、展覧会には自身の作品を出す。「時間が取れないので水彩画ばかり。徳島の人がもっと活躍して紙面で紹介できたらとの思いはありますね」。

 まつばら・きよし 小松島市出身、阿南高専卒。1985年に尼崎市のバルブ製造メーカーを退職し、86年から現職。全日本美術新聞社は神戸市に本社を置く。「全日本美術」は毎月10日発行、発行部数は約5千部。美術評論家協会会員。神戸市在住、65歳。